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尾野真千子:「私だったら、思い出を振り返る旅行なんてしません」 「tourist ツーリスト」インタビュー

 WOWOW、TBS、テレビ東京の3局横断による、Paraviオリジナルドラマ「tourist ツーリスト」。WOWOWでは、10月7日深夜0時半から「ホーチミン篇」が無料放送される。ヒロインの立花カオルを演じた尾野真千子さんに作品について聞いた。

 ◇カオルは、悲劇のヒロインぶりたがる女性なんです

 --演じるカオルの印象をお聞かせください。

 私は、この人のことは好きじゃないなと思いました(笑い)。だって、すぐに悲劇のヒロインぶるから。私は、悲劇のヒロインにはなりたくない。だから、演じるに当たってもカオルのことを理解しようという気持ちはありませんでした。私にとって、役は役。決して立花カオルは尾野真千子じゃない。無理に理解しようとするんじゃなく、ホーチミンの空気を吸って、食べ物を食べて、スタッフやキャストのみんなとコミュニケーションをとって、そうやっていろんなものを吸収しながら、最終的に監督の「スタート」がかかった瞬間、立花カオルとして生きることができればいいなって。そんな気持ちで撮影に臨みました。

 --三浦春馬さんとは初共演ですが、印象は?

 目がすごく印象的でした。というのも、現場にいるとき、いつも目がすごく動いているんですよ。きっと周りの動きとか、いろんなことを見ようとしていたんだと思います。うまく言葉にできないんですけど、一生懸命そこにいることを伝えているような、そういう空気感が三浦さんにはあって。一緒にお芝居させていただけて、すごく楽しかったです。

 --夫役はバカリズムさんです。

 バカリズムさんは、こちらが何かを投げかけたら、必ず返してくれる方。それも、ちゃんとお話に沿った、役の心情を乗せた返しをしてくれるので、すごくやりやすかったです。俳優とお笑いの方では畑が違うので、撮影に入る前は私も多少の不安がありましたけど、お芝居を重ねていくたびに、どんどん面白いものが生まれていきました。

 --そして、夫の愛人役で成海璃子さんも出演されます。

 成海さんは目線や間合いのとり方が独特で。今回も、そんな彼女の独特な空気がよく出ていて。私はそれを心地よく見ながらお芝居をさせていただきました。

 ◇クラブで踊るシーンは、ずっと心が揺さぶられていた

 --横尾初喜監督とも初めてですよね。

 そうですね。普段、監督がどういうスタイルでやっていらっしゃるのかは分からないんですけど、今回に関していえば結構まめにコミュニケーションをとりながら撮影を進められたんじゃないかなと思います。台本の内容についても、もし本当に自分だったらって置き換えて、実際に起きたことのようにあれこれ話をしたり。

 --今回は、長回しも多く、ドキュメンタリーのような撮影スタイルだったと聞いています。

 長回しって、演じる側としてはすごく気持ちがいいものなんですね。もちろんせりふをとちったらどうしようとか大変なことはあるんですけど、細かくカットを割らない分、今こうしてお話ししているみたいに、自分の中で考えながらせりふを話せる。監督のお陰で、今回はそういう醍醐味(だいごみ)を感じながらお芝居ができました。

 --演じていて、特に心が揺さぶられたシーンはありますか?

 クラブで踊っているシーンは結構自分の中で揺さぶられましたね。見ず知らずの人と踊って、いい気分になって、あわよくばこの人と一夜の何かがあるかもしれない。その感情が、はたして自分がおかしくなっているからなのか、それとも新しい一歩を踏み出そうとしているからなのか。私自身も迷いながら演じていたので、あそこは結構揺さぶられていました。

 ◇自己満足でしかないけど、その自己満足がカオルには必要だった

 --カオルは、夫と離婚調停中です。お話だけ見ていると、高圧的なところがあったり、決していい印象には見えない夫ですが、カオルはどんなところが好きだったと思いますか。

 たぶん付き合っているときは楽しかったんだと思いますよ。いるじゃないですか、別れた途端、嫌な思い出しか出てこないタイプの人って。カオルの夫は、完全にそのパターン(笑い)。別れても美しい思い出が残る人もいるけど、そういうタイプじゃない。思い出せば思い出すほど悪口しか出てこなくて、何で好きだったんだろうって思うタイプの人ですね(笑い)。

 --それなのにカオルが執着してしまうのは、まだどこかで思いが残っているから?

 たぶん好きだったときは嫌なところも全部許せたんだと思います。でも、結婚して、お互いが自分のものになった途端、ムカつくところが増えてきてしまった。だから離婚という道を選んだんだと思います。それなのに、いざホーチミンに行ってみたら、いろんないい思い出がよみがえってきて、それで感傷的になっちゃったんじゃないかなって。

 --尾野さんは、そういう未練とはすっぱり決別できるタイプですか?

 すぐ決別します(笑い)。だから思い出を振り返る旅行なんて絶対にしない。もし付き合っていた人との思い出が詰まった土地に行かなきゃいけないことになったら、絶対に楽しい思い出をいっぱいつくって、全部塗り替えてくるでしょうね(笑い)。

 --そう考えると、このホーチミンの旅は、カオルにとってどんなものだったんでしょうね。

 率直に言えば、自己満足でしかないと思います。でも、人生において自己満足ってすごく大事。彼女が新しい道を踏み出すためには、この自己満足が必要だった。そう考えています。

 ◇旅の思い出はイタリアで聞いた12時の鐘の音

 --ロケ地となったホーチミンについてのお話も聞かせてください。

 現場を手伝ってくださった現地のスタッフの方がいたんですけど、皆さんすごく優しくて。こちらに対する気遣いの一つ一つに優しさがにじみ出ているというか。私もこんなふうに優しくなれたらなと思うぐらい、みんないい人でした。

 --特に印象的な現地の思い出は?

 もうクラクションがすごくて。昼夜問わず、「何かしましたか?」っていうぐらい、ずっと鳴ってるんですよ(笑い)。でもだからといって撮影を止めるわけにはいかないし。日本では考えられない量のクラクションが鳴っている中でお芝居をするというのは、何だか新鮮で面白かったです(笑い)。

 --やはり日本と海外では違いを感じますか。

 すべてが違いますね。言葉も通じませんし、飲み物も食べ物もみんな違う。その中でお芝居をするわけですから、お芝居だって変わってきます。だから、今回はとにかくこのホーチミンの空気とか風とか街とか人とかをちゃんと感じてお芝居をしようって、そのことを一番に心がけていました。

 --最後に尾野さんご自身の思い出深い旅の話を聞かせてください。

 私、初めての海外がイタリアなんです。トリノ映画祭に参加するために現地へ行って、それが初の海外。それまでずっと英語もできないし、言葉も通じないから、日本から出るのがイヤで、海外に興味を持ったことがなかったんですよ。

 --初めての海外が、その苦手意識を変えたんですね。

 現地でマネジャーと一緒にごはんを食べていたときのことなんですけど。12時になると同時に街じゅうに鐘の音が鳴り響いて。ただそれだけなんですけど、街の雰囲気にもぴったりで、すごくすてきに思えたんです。そこからいろんな文化を見たいなと思うようになって、海外にも興味を持ち始めるようになりました。今でも気が向いたときにぷらっと行くぐらいで、旅にそこまで関心がある方ではないんですけど、私の中で思い出の旅といえば、イタリアのあの鐘の音を思い出しますね。

 *……ドラマは、「Paravi」が初めて制作した作品。TBSとテレビ東京、WOWOWのテレビ局3社が協力し、1話はTBS、2話はテレビ東京、3話はWOWOWと、史上初となる3局をまたいでの放送となる。1話はTBSで9月28日深夜に放送され、2話はテレビ東京で10月1日深夜に放送された。3話はWOWOWで7日深夜0時半に無料放送される。

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