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俳優の阿部サダヲさん主演の映画「音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!」(三木聡監督)で、初めて歌とギターに挑戦した女優の吉岡里帆さん。映画の中で、吉岡さんが歌う主題歌の一つ「体の芯からまだ燃えているんだ」を作詞・作曲したのは、若者を中心に絶大な人気を誇るシンガー・ソングライターのあいみょんさんだ。京都府出身の吉岡さんと、兵庫県出身のあいみょんさんと、共に関西出身で、25歳と23歳と年齢が近いということもあり、この作品を通じて意気投合した2人に、一緒に仕事をした感想や、今作に関わったことで自身の糧になったことなどを聞いた。
◇「面白い」を言い合う2人
「お互い(出身が)関西なんで、しゃべっていて落ち着きます。もちろん、(吉岡さんは)私よりお姉さん。にもかかわらず、初めて会ったときに『ため口でいいから』みたいなことを言ってくださって、『いやいや』と言いながも、今は少しずつため口というか、親しい口調でお話しできるくらいになりました。面白い方です」と吉岡さんについて語るあいみょんさん。
かたや、2歳年上の吉岡さんも「面白いのはあいみょんです。本当に、どんだけ面白いんやって(笑い)。(面白いのは)すごくしょうもないことを話すところ。なんてことのない話ができる人は、すごく貴重な存在というか……」と普段は出ない関西弁が思わず出てしまうことからも、あいみょんさんとは気の置けない関係であることがうかがえる。
◇初めてが「里帆ちゃんでよかった」(あいみょん)
映画は、“声帯ドーピング”のやり過ぎで、もはや喉が崩壊寸前の世界的ロックスター、シン(阿部さん)と、吉岡さん演じる、恐ろしく声の小さなストリートミュージシャン、明日葉ふうかが偶然出会い、互いの人生に影響を与えていく過程を、三木監督ならではの奇天烈なストーリーと演出で見せていくハイテンション・ロックコメディーだ。
ドラマや映画のために曲を書き下ろしたことはあるものの、「女優さんが劇中で歌ってくださること自体は初めてだった」というあいみょんさんは、その「初めてのことが里帆ちゃんでよかったです」と晴れやかな表情を浮かべる。
依頼を受けてからの、あいみょんさんの対応は早かった。あいみょんさんは、普段から楽曲提供の際、「台本を読み込むよりも、監督さんやスタッフさんの、その作品に対する思いとかイメージを聞いた方が、曲は作りやすい」という。今回は、三木監督との最初の打ち合わせで映画のあらましと出演する俳優を聞き、「映画としての情報量は少なかったんですけど、すぐに詞とメロディーが思いつきました」と語る。その後、ほどなくして2度目の打ち合わせがあり、そこでギター片手に三木監督の前で歌ってみせたところ、監督から「いいんじゃないかな」と、すんなり気に入ってもらえたという。
◇あいみょんのうれしいコメント「貯金しました」(吉岡)
すんなりとは行かなかったのは吉岡さんだ。人前で本格的に歌を披露するのも、楽器を演奏するのも初めて。三木監督からは、ギターと歌を練習し、準備万端整えてから現場に入ってほしいと言われ、撮影の半年前からギターと歌のレッスンを始めた。しかし、なかなか思うように歌うことができず、「気持ちを乗せられた時、初めて曲として完成するんだと練習しながら思いました。ただ弾ける、ただ音がとれたでは、どうしても到達点まで行かなくて……」と当時の苦労を明かす。
吉岡さんの地声が低く、高音が出にくいことも、苦労した要因の一つだった。実は、あいみょんさんは、事前に映画のスタッフから、吉岡さんの音域を示すデータをもらっていた。しかし、三木監督から「(吉岡さんに)無理をさせたいから音域は無視していい」と言われ、あいみょんさんいわく「私でもちょっとギリのところを無理して」作っていたという。
そんなこととは露知らず、当の吉岡さんは、三木監督から折に触れ「急いで」と発破を掛けられ、撮影の直前には「これじゃあ映画にできない」とまで言われ、冷や汗をかきながら特訓に特訓を重ねたという。
結果は、あいみょんさんをして、「ギターもかなり難しかったやろうし、音域も、里帆ちゃんやなかったら歌ってもらえんかったんやないかなと思うぐらいのところだったので、里帆ちゃんでよかったなと思います。いやあ、カッコいいですね。(吉岡さんは)めちゃめちゃ心地いい声の持ち主なので、歌声が聴けてうれしかったです。これだけとはいわず、今後も役として音楽と絡んでいってほしいなと思います」と吉岡さんの歌とギターを大絶賛。その言葉に吉岡さんは、「そんなうれしいコメント。たまらないです。今、(自身の記憶に)“貯金”しました」と、照れながらも心底うれしそうな様子を見せた。
◇得たものは「自信」と「新しいことへの挑戦の仕方」
三木監督といえば、テレビドラマ「時効警察」(2006年)や映画「イン・ザ・プール」(05年)、「転々」(07年)といった作品で知られ、「三木ワールド」と呼ばれる独特の世界観は、多くのファンを引き付けてやまない。今作はその三木監督の「俺俺」(13年)以来5年ぶりの作品となる。脚本も常に自分で書く三木監督は、吉岡さんによると、「やりたいシーンをとにかくやる。やりたいことだけをやるというスタンス」で作品を作り、「話としてつじつまが合うことや、全員に伝わることよりも、自分らしくいることをすごく大事にされている方」と表現する。
その三木監督が、あいみょんさんの曲があったから、「話として1本筋が通った」と話していたという。だからこそ吉岡さんも、ふうかの心情をあいみょんさんが「誰よりも真摯(しんし)に曲にしてくれて、本当に私たちは救われたと思いました。すごくうれしいし、ありがたいし、(あいみょんさんには)言いたいことがいっぱいあります」と感謝してもしきれない様子。
そんな吉岡さんとあいみょんさんに、今作に関わったことで糧となったものを聞くと、あいみょんさんは「楽曲提供はこれまでもたくさんしてきましたけど、映像が付いて、主題歌として誰かに歌ってもらうということも、自分にはできるんやなという自信になりました」と力強く語る。
かたや、歌とギターに挑み、「(演技という)得意のステージで戦うこと以外の挑戦の仕方を学んだ」という吉岡さんは、「今回は音楽というジャンルでしたけど、どんなことも挑戦していくことに意味があると思いました。誰もが最初は挑戦者なのだということを、やりながらすごく感じていましたし、新しいことに果敢に挑戦していく気持ちは、とても勉強になりました」と充実の表情を浮かべていた。