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タサン志麻:“伝説の家政婦”も「ウーバーも頼むし、総菜も買う」 家族で会話を楽しむための料理作り 「日本の食卓をもっと楽しくしたい」

 「予約の取れない伝説の家政婦」といわれるタサン志麻さん。バラエティー番組「沸騰ワード10」(日本テレビ系、金曜午後7時56分)では、初見の食材を使って、3時間で約20品の作り置き料理を作る姿が話題を呼んでいる。メニューを考えるアイデアのもとや、3人の子供を育てる母として食事の時間をどう考えるのかを聞いた。

 ◇こだわりを捨て“あるもので代用”

 調理師の資格を取り、家政婦の前はフレンチレストランで仕事をしていた志麻さん。当時を「完璧な調理環境の中で完璧な仕事をしてお客様に提供する、完璧主義者でした」と話す。食材にこだわり、調理法にこだわり作った料理も「フレンチはハードルが高いイメージがあるからか、知っている人じゃないと食べに来てくれないというさみしさがありました」と振り返る。

 結婚後、家政婦の仕事を始めてからは、スタンスがガラッと変わった。

 「派遣されて行く家庭は、調理環境もそろっている材料もすべて違う。こだわっていたら何も作れないので、こだわりを捨てて、頭が柔らかくなりました。作りたいものに必要な食材がなければ、あるもので代用するというのは調理師時代には絶対にできなかったこと。今の仕事に出会って良かった」と笑顔で語る。

 “あるもので代用する”ことのポイントは、その食材や調味料が料理の中でどういう要素が欲しくて使われているのかを考えることだという。「例えば、青椒肉絲(チンジャオロース)を作りたいけどタケノコがないときは、見た目や食感が近いものとして、色が白くてシャキシャキした食材を代用する。もやしもそうですし、ジャガイモも炒めればシャキシャキする。わざわざタケノコを買いに行く必要がないんです。

 調味料も同じで、例えば酢が必要な分の量がなくても、酸味のある食材、レモンやキウイで代用できないかと考えます。和食を作るのにこれは洋食っぽい食材だから、といった固定観念も取り払って、味や食感だけで考えてみるとアイデアが浮かぶと思いますよ」

 ◇今でも失敗はする 気負わず、次に生かせばいい

 経験豊富な志麻さんには、その場で初めて挑戦する怖さはないのだろうか。

 「やってみないと分からないですし、家政婦の仕事として失敗できないというプレッシャーはあります。でも、思い返してみて、“○○がない”という状況がなければ作らなかった料理は山ほどあります。

 料理の仕事をずっとやってきた私も、今でも失敗することはありますが、失敗から学べばいいのです。フランスのケーキ『タルトタタン』も、アップルパイ用のリンゴを間違って煮詰め過ぎた失敗から生まれたと言われています。作ってみたら意外とおいしかったという経験を重ねていけばいいんです。家で食べるものって、誰かに見せるためのものではないので、気負わずにやってみてください」

 料理に苦手意識を持つ人から、志麻さんのもとには「計ること」の面倒くささを訴える声も届くという。「計量用のスプーンやカップを使って、すり切りできっちり計って、というのは確かに面倒です。大さじ1杯というのが、自分が普段使っているスプーンだとだいたいどれくらいなのか、200ミリリットルが水を飲むガラスのコップだとこのくらい、コーヒーを飲むときのマグカップだとこれくらい、と知っておくと、わざわざ計量用の道具を出す必要もなくなります。

 例えば、水150ミリリットルというレシピで、マグカップに入れた水が170ミリリットルだったとして、極端にまずくなることはないんです。『きょうはちょっと薄かったな』と思ったら、次に作る時にカップに入れる量を減らすようにすればいいので」

 ◇何を食べるかより、誰と食べるか 食事中の会話を楽しむ

 志麻さんは、5歳、3歳、1歳の3人の子育て中。

 「子供たちには、1~1時間半はテーブルについて食事をさせようと心掛けています。うちは1人分ずつ盛り付けた食事ではなく、全員分のおかずをどーんと出して、まず自分がどれくらい食べられるのかを考えて自ら取り分けるところから始めます。1時間なんてあっという間。テレビをつけずに、きょうあった出来事を話しながら、食事をします」

 食事中の会話の重要性は、フランス人の夫、ロマンさんのフランスの実家を訪れた経験から感じたという。「日本は静かに食事をしたほうがいいという考えもありますし、私が育った家庭も、家族がテーブルについて顔を合わせていても、テレビがついていて、あまり会話はなかった気がします。

 ロマンの実家では、はるばる日本から来た私と会話をすることが楽しい、という雰囲気で、とにかくたくさん話をしました。そのとき、2日連続で同じメニューだったんです。日本だと、毎回違うものを出さなくては、とおもてなしをしますが、何を食べるかよりも、誰と食べるかが大事なんだと感じました」

 ◇無理をせず、忙しいときは総菜にひと手間加える

 仕事をしながら、子供のための食事の準備などをすることが大変だと感じる人も多い。子供たちが通う保育園のお母さんたちと話していても、苦痛だという声を聞くことがあるという。

 「こういう仕事だから毎日すごいものを食べてるんじゃないかって言われるんですが、私も(宅配の)ウーバー(イーツ)を頼むし、スーパーの総菜を買うこともあります。無理しないで、自分が作りたいときに頑張って、忙しいときは簡単に済ませます」

 毎日同じスケジュールで動けるわけでもないから、メリハリをつけてもいいという。

 「私のようなお料理の家政婦さんもいっぱいいます。それではお金がかかってしまう、というのであれば、買ってきたものにちょっと手を加えて工夫をします。

 簡単に食事を済ませたいときに、よく作るのがうどん。1人前ずつ取り分けて出すのではなく、全員分の麺とスープを大きな鍋ごと出して、肉、ほうれん草、ゆで卵などの具材を別に出して、好きな具材をチョイスさせるんです。こうすれば『またうどんか』という反応にはならないし、安いものでおいしく楽しく食べられます」

 志麻さんの子育てのポリシーとして、「自分の考えを持ち、判断し、伝えることができるようにすること」があるという。「嫌いな食べ物を無理に食べさせるよりも、どうして食べたくないのか、子供が言葉に出して言えるように訓練するのが食事の時間だと考えてます」

 現在は食品ロス削減につながる「賢者のレシピ」を開発し、ムダをなくしておいしく楽しく作れるメニューを公開している。12月は子供と一緒に作れる「ピザキッシュ」などを紹介する。

 「フランス料理が好きでこの仕事を始め、フランス人の食事の楽しみ方を伝えたい。日本の食卓がもっと楽しくなってくれたらいいな、そのためにも自分が楽しんで料理を作る姿を見せることも大事だなって思っています」

<プロフィル>

 たさん・しま 1979年、山口県生まれ。大阪あべの・辻調理師専門学校、同グループ・フランス校を卒業。ミシュランの三ツ星レストランでの研修を修了して帰国後、老舗フレンチレストランなどに約15年勤務。結婚を機に、フリーランスの家政婦として活動開始。各家庭の家族構成や好みに応じた料理が評判を呼び「予約がとれない伝説の家政婦」としてメディアから注目される。フランス人の夫、3人の子供、2匹の猫と暮らす。

*……「賢者のレシピ」は、「食材を育てる人も、調理する人も、食べる人も、みんながHAPPYになる」というコンセプトで、タサン志麻さんがレシピ監修を務める。あまりがちな食材や市販の総菜などを使って、「ムダなく、かしこく、簡単に」作ることができるレシピを目指している。

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