俳優の池上季実子さんが「ハートの女王」を演じるミュージカル「ALICE~不思議の国のアリスより~」が11月4日、幕を開ける。今年デビュー50年。テレビ、映画、舞台を問わず役者として活躍してきたが、ミュージカルに出演するのは初めて。65歳での新たな挑戦に「ためらいは一切なかった」という池上さんに作品への思いを聞いた。
◇コロナで生死をさまよい… 60歳を超えての挑戦にも迷いなし
「50年やってきて、初めてです。奥さん事件ですよ、ってそんな感じ。楽しさと、不安と、ドキドキと、わくわくと。いろんな気持ちでいっぱいですね」とちゃめっ気たっぷりの笑顔で語った池上さん。
実は今回の作品のオファーを受ける直前にもミュージカル出演の声がかかったが、実現しなかった。
「今まで一度もミュージカルの話はこなかったんです。それなのに、2022年に新型コロナウイルスにかかって入院し、2度、生死をさまよって復帰すると、立て続けに声がかかった。これは『やれ』ということだなと思いました。
私にとってコロナから生還した後に出会った人は、“私の宿題が詰まってる人たち”。自分が生きていることにも、きっとなにか意味がある。だから、挑戦することにためらいは一切、ありませんでした」
◇「できない」と落ち込んでいるヒマはない 自分を鼓舞して稽古に励む
稽古(けいこ)は、自らのリクエストで、共演者より半年以上早い約1年前から始めた。“百戦錬磨”の池上さんも、芝居と歌の切り替えに苦労したという。
「最初は、泣くせりふで感情が高ぶりすぎてしまい、そのあとに続く歌が歌えなくなることもありました。せりふのあと、短いイントロの間に、いかにうまく感情を整理してしっかり歌えるようにするかがテーマでしたね。
共演者は歌やミュージカルの経験もあって、みんな年下。私一人ができなくて落ち込むこともあります。でも、落ち込んでいるヒマはない。ここまで稽古してきたんだから“ゼロじゃない”“良くなっている”と自分を奮い立たせて、やるしかない。落ち込むヒマがあったら、練習に全力投球です」
◇ハートの女王「首をはねろ!」の背景とは キャラクターの“人生”を描く
物語は、ルイス・キャロルの児童小説「不思議の国のアリス」(1865年)を原作に、新たな要素を加えた。池上さんが演じる「ハートの女王」は、かんしゃく持ちで「首をはねろ!」と繰り返し命令する悪役的なキャラクターだ。
「『アリス』というと子ども向けのイメージですが、今回はそれぞれのキャラクターの“人生”が描かれています。ハートの女王も、なぜ『首をはねろ!』と言うばかりの女王になったのかを掘り下げて描いている。そこに共感があり、だからこそ私がこの役に呼ばれたのでしょう。もちろんファンタジーならではの、華やかな“夢の世界”も広がっています」
公演は、11月4日の青森公演から来年1月26日の和歌山公演まで約3カ月、全国13カ所をまわる。
「地方でこれだけ華やかなミュージカルが上演されるチャンスは少ないですから、本当はもっとたくさん、いろんなところに行きたいくらい。私たちキャストとスタッフが最大限のエネルギーでいいものを作って、日本中の方に夢や前向きな気持ちを届けたいですね」
◇芝居への情熱が“美しさ”の秘訣 舞台という目標に向かって頑張れる
最後に、変わらぬ美しさの秘訣(ひけつ)を聞くと「今も芝居に恋してるから」と即答した池上さん。
「友達が言うんです。『きみちゃん(池上さんの愛称)は、稽古が始まると元気になるね』って。舞台が終わると、空気が抜けた風船みたい。おばあちゃんですよ(笑い)。でも舞台があると、そこに向かって頑張れる。人生の目標というか、私は芝居をやれていれば元気なんだと思います」
*……「ALICE~不思議の国のアリスより~」は、青森、東京、愛知、大阪、静岡、岐阜、和歌山、香川、大分、熊本、長崎、鹿児島で上演。主人公アリスを田中夢羽さん、ハートの女王を池上季実子さん、帽子屋ハッターをROLLYさん、チェシャ猫を土屋アンナさん、白ウサギを吉田要士さん、チャールズを河相我聞さんが演じる。各地のチケット情報など、詳細はホームページで公開されている。