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女優の有村架純さんと俳優の高良健吾さんが主演する放送中のフジテレビの“月9”ドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」の主題歌として視聴者の涙を誘っているのが、歌手の手嶌葵さんが歌う「明日への手紙」だ。10日にシングルとしてリリースした楽曲について話を聞くうちに、手嶌さんの素顔が見えてきた。
◇納得できなくて何度も歌い直した
――ドラマが放送されてからの反響は?
「手嶌葵さんの歌がいい」という反応が結構あって、“テヘッ”と、思いました(笑い)。とても感動的ないいシーンで使っていただいているので、(ドラマの)監督さんには感謝したいです。
最初に台本を読んだときは、切なさが満載されていて、これがどういうふうにドラマになるのかな? と、楽しみにしていました。静かに訥々(とつとつ)と物語が進んでいく。1時間のドラマだけれど、2、3時間ものの映画を見たような後味でした。楽曲がどこで流れるかは聞かされていなかったので、自分でも予期していなかったところで突然流れたので、ドキッとしました。気持ちがグッと上がるところでしたので、とてもうれしかったです。
――「明日への手紙」は、一昨年にリリースしたアルバム「Ren’dez-vous」に収録されていた曲。それをドラマで使いたいと、オファーを受けたときの感想は?
今まで以上に多くの人に聴いていただけると思って、とてもうれしかったです。楽曲は、アルバムの中でも少し毛色の違ったものでしたので、よくぞ見つけてくださったという感じですね。せっかく使っていただけるのなら、改めていろんなアレンジをしていただきたいと思って、今回リアレンジして歌も再録音しています。
――作詞・作曲は、シンガー・ソングライターの池田綾子さんが担当しました。歌ったときは、どんな印象でしたか?
自分自身が10代の頃の気持ちに、フッと戻れるような感覚があったり、当時の思い出がよみがえるようなメロディーでしたので、自分自身の昔のことを思い出しながら歌わせていただきました。今回は、美しさや静けさという印象は変わらずですが、蔦谷好位置さんの編曲で、ドラマ用に少しだけ華やかになった印象です。アレンジが変われば、歌に臨む気持ちも変わる……。そもそもドラマのためにという意識でしたので、ドラマの1、2話の台本を拝見させていただいた上で、歌わせていただきました。先ほどは10代の頃の気持ちとお話をしましたが、ドラマでは主人公たちが社会人なので、今回は当時より、5歳ほどプラスして歌ったイメージです。
――ドラマの1話では、有村架純さん演じる杉原音が持っていた手紙が、高良健吾さん演じる曽田練との間を結ぶ。劇中でその手紙は“心のつっかえ棒”と例えられていて、今回の「明日への手紙」は、まさにそんな曲だなと思いました。
聴いてくださる方にとっての、そんな存在になれたらうれしいです。私にとっての“心つっかえ棒”は、モノや誰かの言葉ではありませんが、歌が好きだということ。その気持ちがあるからこそ、うまくできなかったとき悔しい気持ちになるし、もっとやれるんじゃないかと思ったりもします。好きな気持ちが核にあるからこそ、現在まで続けて来られたのだと思います。
――心が折れてしまいそうになったことも?
あります。うまく歌えないときは、不安になって心がユラユラします。それでも、きっとできるはずだと心を持ち直して何度も歌います。今回のレコーディングも、決してスムースに、とはいきませんでした。蔦谷さんのイメージもあったと思いますが、私自身で納得がいかないところがあって、何度か歌わせていただきました。こういうスローテンポの曲でもリズムが大切だと思っていて。2014年以降コンサートで歌わせていただいている曲なのですが、今回はそれよりも少しテンポを落としているんです。元のテンポに慣れてしまっていたので、気持ちがうまく乗らないところがあって、少しずつ修正しながらベストを目指しました。
――何かカラオケで歌うときのコツというか、ポイントとなるところはありますか。
深呼吸してから、リラックスして歌ってください。私は皆さんに向けて歌っていますが、自分の過去や現在、未来に向けて歌っている曲でもあります。なので、自分自身を見つめるようにして、自分のために歌っていただくのもいいと思います。
◇東京にいると緊張してしまって…
――手嶌さんは、歌声や今お話しをされている雰囲気から、ゆったりした性格の方という印象ですが。
普段は、そんなにユッタリしているわけではないと思います。スポーツが苦手と思われがちですけど、決してそんなことはなくて。学生時代はバレー部で、センターでブロックしていたんですよ(笑い)。その割には、声が小さいともいわれるのも確かですが、東京にいると緊張してしまうので、より声が小さくなってしまって……。
――ライブのMCも?
PAさんに助けていただいています(苦笑い)。MCでは、曲について思い出やエピソードを話すのですが、皆さん静かに話を聞いてくださいますね。そもそも、手拍子をするような盛り上がる曲もないので、そのまま寝てしまっても大丈夫なくらいです。BLUE NOTE TOKYOでライブをする機会が多いのですが、皆さん飲み物を飲むときもソローッと飲んでいます。カチャッと音が鳴ると、結構響いてしまうので。気を使わせてしまって、申し訳ない気持ちもあります。
――6月7日にデビュー10周年ですが、どんなお気持ちですか。
デビューしてから1~2年は緊張しっぱなしで、とてもあっという間で。そこからの8~9年は、とても長かったように感じます。
デビューはスタジオジブリの映画「ゲド戦記」の主題歌「テルーの唄」で、同時に世界デビューしたような形でしたので、海外の方からメッセージをいただくことも多く、そのときはとても驚きました。それからちょうど5年後の2011年に再びジブリ作品で、「コクリコ坂から」の主題歌「さよならの夏~コクリコ坂から~」を歌わせていただいて。コンサートにも海外の方が足を運んでいただけるようになり、ある意味でジブリ作品のすごさを実感しました。昨年は、宮崎吾朗監督の作品で「山賊のむすめローニャ」のオープニングテーマ「春のさけび」を、歌わせていただきました。5年周期でもありませんが、節目、節目でこうした大きなタイアップに携わらせていただけているのは、本当にご縁を感じますし、ありがたいことだと実感しています。
――最後に、今年の展望を教えてください。
現在アルバムを制作中です。2014年のアルバムでは初めて作詞にチャレンジしたので、その機会がまたあったらいいなと思っています。また、それに伴ってたくさんコンサートを行いたいと思っています。どうしても首都圏が中心になってしまって、地元の福岡でもほんの数える程度しかやったことがないんです。行っていない地域がまだたくさんあるので、いろいろなところに行ってみたいです。あと、屋外で歌うことが大好きなので、イベントやフェスにも積極的に参加したいと思っています。「コクリコ坂から」のときに、「ROCK IN JAPAN FES」に出させていただいたのですが、あのときの体験は、とても印象に残っています。私の声が小さくて、遠くでやっているバンドさんの音量に負けたという……(笑い)。
<プロフィル>
1987年6月21日生まれ、福岡県出身。2003年と04年に、出身地の福岡で行われた「TEENS’ MUSIC FESTIVAL」に出場し、ウィスパーボーカルが聴衆を魅了した。当時歌った楽曲「The Rose」のデモCDが、スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーと映画「ゲド戦記」の宮崎吾朗監督の耳に届き、「ゲド戦記」主題歌「テルーの唄」でデビュー。以降、映画「西の魔女が死んだ」の主題歌や、数多くのCMソングを担当している。「手嶌葵 10th Anniversary Concert」の開催が決定。詳細は、公式サイト(aoiteshima.com)を参照のこと。
(取材・文:榑林史章 写真提供:ビクターエンタテインメント)