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注目映画紹介:「共喰い」 芥川賞受賞作を忠実に映画化 一人の若者が抱える心の闇と成長を描く

 第146回芥川賞を受賞した田中慎弥さんによる同名小説を映画化した「共喰い」(青山真治監督)が7日から全国で公開される。「KT」(2002年)や「ヴァイブレータ」(03年)、「大鹿村騒動記」(11年)などの脚本で知られる荒井晴彦さんが脚本を手がけ、「東京公園」(11年)、「EUREKAユリイカ」(00年)などの青山監督がメガホンをとった。「仮面ライダーW」で史上最年少ライダーにふんし俳優デビューを飾った菅田将暉さんが17歳になったばかりの主人公・篠垣遠馬を演じ、ひと夏の体験がつづられていく。遠馬の父を光石研さんが演じているほか、母親役で田中裕子さんが出演している。

 昭和63(1988)年夏、山口県下関市。遠馬の父・円(光石さん)には性行為の際、女性を殴る性癖があった。母・仁子(田中さん)はそんな夫に愛想を尽かし、遠馬を産んですぐ家を出た。今は近所で魚屋を営んでいる。幼なじみの千種(木下美咲さん)とはすでに関係を持っている遠馬だが、いつか自分も父親と同じように相手を殴るようになるのではと脅えながら生きていた。そんな中である事件が起こる……という展開。

 映画は、原作にほとんど忠実に作られている。原作を読んだときに思わず顔をしかめた川の汚さ、夏の日差しを受けて汗ばむ肌……そういったものがそのままスクリーンの映像から感じ取れ、小説の文章が登場人物のせりふや情景に置き換わったような印象を受ける。そんな中で描かれる、一人の若者が抱える心の闇と成長。それを脇で支える女たちの強さ。映画には、小説にはなかった“その先”がある。原作の田中さんは、映画ならではのエンディングに「ああ、やられた」とうなったという。映画にはまた小説と同様に、神社の鳥居にまつわるくだりが出てくる。小説にはなかったその説明を受け、「なるほど」と腑(ふ)に落ちた。なお今作は8月にスイスで開催されたロカルノ国際映画祭で「YOUTH JURY AWARD最優秀作品賞」と「ボッカリーノ賞最優秀監督賞」をダブル受賞している。7日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

 <プロフィル>

 りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションをへてフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。

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