俳優の大泉洋さんが、札幌の歓楽街ススキノを知り尽くした“探偵”に扮(ふん)し、松田龍平さん演じる相棒の高田と事件を解決していく人気シリーズ第3弾「探偵はBARにいる3」(吉田照幸監督)が1日に公開された。「映画って、期待しないで見た方がいいですね。特に、大作系って期待して(劇場に見に)来ちゃうでしょ。絶対面白いんだろうなとか、予告とか(を見て)散々予習して来ちゃうからね。ああいうのはダメ」と笑顔で言い放つ大泉さんに、前作から4年ぶりに探偵を演じた感想などを聞いた。
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◇するする入っていけた「探偵」の世界
原作は、札幌在住のミステリー作家・東直己さんの「ススキノ探偵」シリーズ(ハヤカワ文庫)で、これまで、「探偵はBARにいる」が2011年に、「探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点」が13年に公開されている。このシリーズの映画化に際しては、いつもプロットから読んでいるという大泉さん。今回も、直接脚本作りに参加したわけではないものの、「『探偵』って、どこかに大人の切なさというか、頑張って生きているんだけど、なんかうまくいかないんだよな、っていう切なさが必要な気がしていて」、そこに向けてスタッフと考えていく中で、ストーリーが出来上がっていったという。
1作目から6年、2作目から4年がたつ。しかし、ブランクは感じなかったという。「『探偵』ってスタイルが決まっているから、朝、ホテルの支度部屋に入って、いつものメークさんが頭をやってくれて、いつもと同じ衣装さんが僕に服を着せてくれて、このコートを着た段階で、だいぶ来た!って感じがするんだけど、そこに、松田龍平君がこの(役衣装の)格好で現れて、2人でそのままススキノの街に行くと、いつもと同じカメラマンがいて、照明さんがいて……と、どんどん『探偵』の世界に、それこそ『アリス・イン・ワンダーランド』(10年)みたいに(笑い)、するする入っていけましたね」と語る大泉さん。松田さんとの芝居も「松田君のせりふをぽっと聞くと、するっと(役に)入れました」と慣れたものだ。
◇やっぱり若かった「1」の自分
その一方で、これまで探偵の陰に隠れるように存在していた高田は、今回は声を荒げたり、肉体トレーニングに励んだりと、従来とは違う表情を見せる。それについて、「(高田が)『バカヤロー!』とか言うんだけど、なんかピンとこないんだよね、松田君が声を荒げて怒るというのが(笑い)。それが面白かった」と振り返る。
気持ちの上では「するする」と入っていけた「3」だが、体は別だった。「(4年前と)同じトレーニングをしたのにいきなり肩が痛くなって、ああそうか、もう同じことはできないんだ」と肉体の衰えを痛感したことを苦笑まじりに明かす。今回のキャンペーン中に、どうにも眠れない夜があり、思わず「探偵」の前2作を見てしまい、「見始めたら、これがまた面白いんですよ」と自画自賛するも、夜更かしの末に2作とも見た結果、「自分でもやっぱり『1』は若い」と認めざるを得なかったそうだ。
◇「尾野真千子が怒りますよ」
今回のヒロイン、岬マリを演じたのは女優の北川景子さんだ。北川さんとのシーンの大泉さんが、今までにも増してうれしそうだったという指摘に、「そんなことあります!? そんなこと、尾野真千子が読んだら怒りますよ」と、前作でヒロインを演じ、かつ17年前に大泉さんが出演した映画「man-hole」(2000年)で、女子高生を演じていた旧知の仲の尾野さんを気遣い(?)ながら、猛然と否定する大泉さん。
とはいえススキノを、北川さんと腕を組んで歩くシーンでは、「やたらデレデレしている」とスタッフにも言われたそうで、「それは多分に僕が(デレデレしている)、というのではなく、男性諸氏が、『大泉のくせに北川景子と腕を組んで歩いている』と思って見るからじゃないですか」と重ねて否定。その上で、「ただ、」と言葉をつなぎ、「僕がマリのマンションを見張っていると、突然羽交い締めにされて、振り向くとマリがいて、『遊ぼうよ』と言われるシーンがあるんですけど、あれはやっぱり相当クラクラきました(笑い)」とまんざらでもない様子だった。
◇「探偵」には「感謝しかない」
ところで、北海道発の深夜番組「水曜どうでしょう」(1996年~)で地元の人気者となり、その後、同番組のうわさが本州にも及び、2000年代に入ってからは、劇場版アニメの声優や全国ネットのテレビドラマに出演するようになった大泉さん。それに伴い「ローカルタレント感」が薄れていくことへの憂いを、13年に出版した著書「大泉エッセイ~僕が綴(つづ)った16年」(角川文庫)で記していたが、ともかく大泉さんにとって1作目の「探偵はBARにいる」が、一つのターニングポイントになったのは確かだ。
大泉さん自身、「1」と「2」のキャンペーン中には、「よく私を起用してくれたと話していた」と言い、「まだまだ主演なんてやったことのない中での大抜擢(ばってき)でしたから、それはとてつもない思い入れがありました。僕の役者としてのステップを、大きく一段上げてくれた作品で、感謝しかありません」と話す。
◇仕事が一番の趣味
そんな大泉さんに、10年後、俳優以外にやってみたいことはあるか、例えば、映画監督や映画の脚本を書いてみたいという野心はあるかと聞いてみた。すると、「とにかく、将来というものをなかなか考えられない人なんです」と切り出した。「将来を考えると怖いから考えないんですけど、でも、今言われたことは、全部やってみたいですね。監督も難しそうだけどやってみたいなと思うし、脚本を書けたら書いてみたいなとも思う。でも、結局“面倒くさい”が勝ってくるんですよね。監督やりたいな、でも、ロケハンとか面倒くさいんだろうな(笑い)とか、脚本も何回か書いたことはありますし、出来上がったときはすごくうれしいんだけど、僕の場合、締め切りに追われて延々と苦しむから大変なんですけど、やってみたいなとは思います」と遠慮がちに答える。
それでも、「ただ、なんとか役者がやれていればいいなとは思います。タレントとしてバラエティーも続けていたいです」という思いは揺るぎなく、「やっぱり、仕事が一番の趣味なんですよね。仕事でもあるけれど、これをしていないと一番つまらないから」としつつ、「だけど、やりたいからといってやれるお仕事ではないので、10年後もこの仕事がやれているように頑張りたいと思います」と真摯(しんし)に語る。
ならば10年後は、「『探偵はBARにいる6』あたりに出演しているかもしれませんね」と振ると、「やっぱり、『6』くらいまで行っとかないとね(笑い)」と意欲を示し、今回、悪役で登場するリリー・フランキーさんが完成した映画を見て、「『すごい安定感だ。これは間違いなく(『男はつらいよ』シリーズと肩を並べる)48作できる』と言っていました(笑い)」と胸を張る。そこで、「ぜひ10年後、大泉さんが監督した『探偵はBARにいる』が見てみたいです」と水を向けると、「いいですねえ(笑い)」と、まんざらでもない様子だった。
<プロフィル>
おおいずみ・よう 1973年4月3日生まれ、北海道出身。北海道発の深夜番組「水曜どうでしょう」(96年~)でブレーク。演劇ユニット“TEAM NACS”に所属。主な映画出演作に「アフタースクール」(2008年)、「しあわせのパン」(11年)、「清須会議」(13年)、「青天の霹靂」(14年)、「駆込み女と駆出し男」(15年)、「アイアムアヒーロー」(16年)、「東京喰種トーキョーグール」(17年)がある。18年にはTEAM NACS本公演「PARAMUSHIR~信じ続けた士魂の旗を掲げて」が控えている。
(取材・文・撮影/りんたいこ)
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