取材に応じた片桐はいりさん
第一線で活躍する著名人の「30歳のころ」から、生きるヒントを探します。今回は俳優の片桐はいりさん。当時の思い出や、30代をより輝かせるためのアドバイス、10月17日から上演される野外劇「嵐が丘」などについて聞きました。(全3回の2回目、編集・取材・文/NAOMI YUMIYAMA)
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片桐さんに30代女性へのメッセージを聞いた。まず、30代で「やっておいてよかった」ことを尋ねると、「とにかくあらゆる場所を旅したこと」と言う。
「仕事で全国行っていない県はないし、よく海外にも行きました。仕事の合間にもみんなでショッピングに出かけたり、小旅行をしたり。いろんな見聞を広められたし、すごく楽しかったですね。20代のうちに貧乏旅行で行くのもいいのかもしれませんが、ある程度、お金に余裕がある30代だったので、いろんなことに自分で采配を振るえたのも良かったと思います」
次に、俳優として40年以上のキャリアを持つ片桐さんに、仕事を長く続ける秘訣(ひけつ)を尋ねると、「えっ?」と声を詰まらせた。
「長く続ける秘訣……実は私自身は今の仕事を続けたいとか、全く思わないでやってきたんですよ。というか、細く長くやりたいと思ったら、それなりにほかの配慮が働いて、ペース配分が起こりますよね。それで結局は続かないこともあるんじゃないかな。私は続けようと思ったことがないから、逆に続いているのかもしれません」
◇映画は初恋の人、演劇は気の合う恋人。そんなバランスもある
では、「好きなこと」が仕事だと、長く続けやすいのかと尋ねると、「そこまで好きにこだわらなくてもいいのでは」と、自身の仕事観をこう語った。
「一番好きなことを仕事にできるのは理想だと思うけれど、難しいところもありますよね。私の周りにもどうしても映画の仕事がしたくて、やれることになったけど、好きだからこそつらくなって、やめてしまった人も結構いるんです。
たとえば、私は舞台中心の俳優で、自分でも向いていると思いますけど、一番好きなのは映画なんです。もはや“初恋の人”みたいな存在ですね。でも、初恋の人とは結婚できなかったので、“たいして話は合わないけど居心地がいい恋人”みたいな演劇といるという感じかな(笑い)。ときどき、映画の仕事があると『すてきだわ~』と思ってやるけれど、向いていないから、結局、演劇の元に帰る、みたいな感じです」
でも、それが自分にとっていいバランスなんです、と片桐さんはほほ笑む。
「ときどき、私にも映画の感想を寄稿してほしいというオファーをいただきますけれど、『仕事じゃないのですみません』と断っています。だって、できませんよ! 初恋の人を『批評する』なんて(笑い)
今の『推し活』じゃないですけど、生活に好きなことがあると豊かになりますよね。だから、本当に好きなことは仕事をすることにこだわらず、生きる楽しみにしてもいいのではと思いますね」
<プロフィル>
かたぎり・はいり 1963年1月18日生まれ。東京都出身。大学在学中に映画館でもぎりのアルバイトをしながら、劇団で舞台デビュー。その後、CM、映画、テレビドラマと幅広く活躍。代表作に舞台「キレイ~神様と待ち合わせした女」「異邦人」、映画「かもめ食堂」「私をくいとめて」、ドラマ「あまちゃん」「富士ファミリー」など。エッセー「もぎりよ今夜も有難う」は、第82回キネマ旬報ベスト・テン読者賞を受賞。
*……野外劇「嵐が丘」▽作:エミリー・ブロンテ▽演出:小野寺修二▽訳:小野寺健▽上演:10月17〜26日▽場所:GLOBAL RING THEATRE(池袋西口公園野外劇場)
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