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映画「風の電話」の一場面 (C)2020映画「風の電話」製作委員会
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映画「風の電話」の一場面 (C)2020映画「風の電話」製作委員会

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注目映画紹介:「風の電話」東日本大震災で家族を失った少女の再生の物語 モトーラ世理奈のアンニュイな表情に引き込まれる

 女優のモトーラ世理奈さん主演の映画「風の電話」(諏訪敦彦監督)が、1月24日から新宿ピカデリー(東京都新宿区)ほか全国で公開される。岩手県大槌町に実在する「風の電話」をモチーフに、東日本大震災で家族を失った少女が、故郷の大槌町に向かう過程でさまざまな人と出会い、生きる力を取り戻していく姿を描く。アンニュイな雰囲気を漂わせたモトーラさんの表情が、映画の一つの吸引力になっている。

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 高校生のハル(モトーラさん)は、東日本大震災で家族を失い、今は広島で伯母・広子(渡辺真起子さん)と暮らす。伯母が倒れ、孤独と絶望で泣き疲れたハルは、通りかかった軽トラックの運転手・公平(三浦友和さん)に助けられ……というストーリー。西島秀俊さん、西田敏行さんらも出演している。

 風の電話は大槌町在住の庭師・佐々木格さんが、死別したいとこともう一度話したいとの思いから2011年に自宅の庭に設置した。その後、東日本大震災が発生。これまで3万人以上が大切な人への思いを胸にこの場所を訪れているという。

 メガホンをとったのは「2/デュオ」(1997年)や「M/OTHER」(1999年)、「ライオンは今夜死ぬ」(2017年)などで知られる諏訪監督。撮影現場の空気と俳優から湧き出る感情を大切にしながらカメラを回す、いわゆる「即興芝居」を好む監督だ。今回は狗飼恭子(いぬかい・きょうこ)さんの脚本はあったものの、やはり俳優の感情を優先して撮っていったという。

 ハルは出会う人々から力をもらう。山本未來さん演じる妊婦からは、新しい命に触らせてもらうことで希望をもらい、被災地でボランティア活動をしていたクルド人男性の娘からは、境遇は違えど故郷に対する思いを共有し、元気と勇気をもらう。少しずつ絶望の淵からはい上がっていくハル。それと共に、映画を覆っていた濃密な悲しみの空気は徐々に薄らいでいく。

 カメラはゆったりと回るが、緩慢な印象は受けない。絶望や悲しみでぺしゃんこになったハルの心が、人々からもたらされる優しさや励ましで弛緩(しかん)と緊張を繰り返しながらゆっくりと膨らんでいくのが伝わってくるからだろう。

 人はつらいできごとに遭遇しても、生きている以上、前に進むしかない。そのためには食べなければならない。三浦さん演じる公平がハルに言った言葉が腹にストンと落ちた。(りんたいこ/フリーライター)

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