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第一線で活躍する著名人の「30歳のころ」から、生きるヒントを探します。今回は俳優の筒井真理子さん。当時の思い出や、30歳をより輝かせるためのアドバイス、5月26日に公開される映画「波紋」(荻上直子監督)などについて聞きました。(全3回の3回目、編集・取材・文/NAOMI YUMIYAMA)
映像や舞台で幅広く活躍する筒井さんが、「彼らが本気で編むときは、」を手がけた荻上監督の最新作「波紋」に主演する。夫の失踪をきっかけに新興宗教に入信するヒロイン・依子の生き方を描いた、ブラックで痛快な人間ドラマだ。
「最初に脚本を読んだときは、クスクスっという笑いの中にちょこちょこっとトゲがあって、面白さと社会風刺のバランスがいい作品だなと思いました。お話も一体これはどうなるんだろうという展開で、演じることが楽しみでした」と、筒井さんは語る。
筒井さん演じる依子は、父親の介護を押し付けたまま夫が失踪し、救いを求めて新興宗教「緑命会」に入信するパート主婦。教団の教えに従い、波紋を描いた庭の枯山水(かれさんすい)の手入れをしながら、平穏を取り戻していく。だが十数年後、夫が突然、家に舞い戻ってきて……。
「いつ帰ってくるかもわからない。待っていいの?というのもわからない。そのときの依子の心境は、かなり想像しないと追いつけなくて、かつて親友を亡くした体験を持つ姉に、大切な人が突然いなくなってしまった時のことを尋ねたりしました。その上、依子の場合は、その状況に慣れたと思ったら、今度はその夫が、帰ってきますからね」
やがて夫の目的は、妻に会うためではなく、高額ながん治療の費用を払ってもらうためだったと依子は気づく。だが、勝手な夫に内心あきれながらも、依子は受け入れてしまう。周囲を気遣うあまり、自分の本音を出せない依子について、筒井さんは自分と似た部分があると言う。
「荻上監督が海外の女性たちから、『何でこんな夫を家にいれるの?』って驚かれたそうです。ただ、日本人ってそういうところがある気がします。私も子供の頃から周囲を気にしながら生きてきて、『人は誰でも助けなければならない』と思ってきたので、似ている部分を感じながら演じていました」
◇ついに依子の感情が爆発! 物語は意外な方向へ
そんなある日、スーパーで働く依子は、同僚・水木の一言をきっかけに、反撃ののろしをあげる。その大胆な変化は、家族や新興宗教の教祖までも驚かせるものだった。
「依子が、同僚の水木さんに『仕返しなんてしてもいいんですか……?』と問いかける。そのシーンの彼女の気持ちは、誰もが理解できるんじゃないかと思います。私も過去に、長く抑えていたことがあって、手をプルプル震わせながら相手に気持ちをぶつけたことがありました。でも思いきって言ってみれば、意外と何でもないんですよね(笑い)」
周囲を気にせず、自ら波紋を広げる依子の姿は痛快だ。ドラマには、恋人を連れて帰省した息子も加わって、予想もつかない展開になる。国内外で数々の演技賞を受賞した筒井さんの繊細で鮮やかな演技を始め、夫役の光石研さん、水木役の木野花さん、息子役の磯村勇斗さん、教団信者役の江口のりこさんなど、実力派俳優たちの熱演も見逃せない。
「コロナ禍での撮影でしたが、皆さん役に向き合っている姿がとてもすてきでした。役者を長くやっていて良かったなと思えました」
最後に、同作でヒロインは新興宗教に救いを求めたが、筒井さん自身がよりどころにしているものを尋ねた。
「私は池田晶子さんの本が好きなんです。とくに『人生のほんとう』はときどき読んで心をリセットしていますね。どんなに悩んでいても、池田さんの“絶望を笑う”ようなたくましさに、本来の自分に立ち戻ることができるんです」
<プロフィル>
つつい・まりこ 早稲田大学在学中に劇団「第三舞台」で初舞台。第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞した「淵に立つ」(深田晃司監督)の演技力が評価され、複数の映画祭で主演女優賞に輝いた。主演作品「よこがお」(深田晃司監督)で芸術選奨映画部門文部科学大臣賞受賞。
*……「波紋」▽監督:荻上直子▽出演:筒井真理子、光石研、磯村勇斗ほか。5月26日公開