「銀座いせよし」の千谷美恵さん(左)に着付けを教わった三浦理恵子さん(C)PRODUCTION OGI
今回はいよいよ着付けです。選んでいただいたのは、一年中着られる薔薇(バラ)の模様の染めの着物です。まずは薄い紫系の模様の長襦袢(じゅばん)を着せていただき、着付けのスタートです。
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◇着物は「羽織る」ことが肝心
最初に教えていただいたのは、着物は「羽織(はお)る」ということ。共襟と共襟を合わせて、真ん中を持ったまま手を後ろに持っていって「羽織る」。こうすると背の中心が真ん中にくるということで、先生に言われるままやってみると、とてもスムーズにフワッと羽織ることができました。ジャケットでもスカーフでも、そうやって着るとキレイになるそうです。
着物を前に持ってきたら、共襟と共襟が同じ位置にあるか、もう一度確認します。
すでにこの時点で気持ちが変わってきて、“着物を着ている”といううれしい感覚が湧いてきます。洋服より暖かいし、すごく楽です。長襦袢のあばらの下くらいをキュッと締めているので安定感があります。
着物の襟は、首に合わせた方が奥さまらしい感じになるそうです。襟を抜くのは場所と立場によるもので、普段着は意外とピッタリ。特に初心者は着ているうちに動いてくるので、最初はピッタリで始めた方がいいようです。長襦袢の襟は安全ピンで付け替えられるもので、簡単なのもいいですね。
◇下半身はあっという間に出来上がり
次は丈の調整です(写真1)。前と、後ろの背縫いのどこでもいいので両方を持って着物を上げる。礼装なら畳に触れるぐらい。普段着はくるぶしが隠れる程度。着物をガバっと上げることによって後ろに空気が入ってシワが取れるので、大胆に両方を上げ、丈が決まったら着物を前に持ってきて、今度は幅の調整です。
着物の右手前を中に入れて押し込み、引っ張ったまま合わせて腰ひもを締める。この時に腰ひもだけはしっかり締めたいので、まず背骨の中心でギュッと締めて、前で蝶(ちょう)結び。ここで一つの技として、下のひもを1本に二重に掛けて固結びをすると、崩れにくくなるそうです。もうこれで下半身は出来上がり。早いですね。
◇上半身は横に引っ張る
次は上半身の調整です。このように手を入れて、2~3回、横方向に大胆に引っ張ってから、伊達(だて)締めで押さえます。伊達締めは腰ひもほど締めなくていいので、1~2回からげて、ひもをねじって上から下へ通す。これで着物はほぼ出来上がりです。
先生の指導だと何もかもスムーズで、果たしてこれを全部一人でやれるのか不安ですが、この時点で着心地はすごくよくて、苦しくもないし、崩れる気も全然しません。補正のために(着物の)1枚下にタオルを入れていただいたので、それでまた安定した感じです。次は難関の帯ですが、その前に帯まくらを使うコツを教えていただきました。
帯まくらについているひもはキュッと締まりにくいので、薬屋さんで売っているガーゼを買って、ひもの長さくらいで切り、帯まくらを包んでガーゼで締めると使いやすいそうです(写真2)。帯まくらの真ん中を輪ゴムで止めて準備しておくと楽ですね。
◇苦しさは自分で調整
帯は輪の方を外側にして、後ろから持ってきて巻きます。帯の巻き方には関西風や東京風があるそうですが、今日は東京風で。巻いたら自分で締めます。締めるときは斜めにならないように、なるべく水平に。そこで帯板をはさみ、2巻目も同じように巻いたら締める。自分の気持ちのいい締め具合は自分しか分からず、人にしてもらうと苦しくなるそうですが、やってみて実感しました。
帯は模様がセンターにくるように。でも真センターでも粋ではないそうなので、少しだけずらして位置を決めたら、もう一度グッと締める。そのとき、帯の下を締めて上を開ける感じにすると苦しくないので、下と下を持ってグッと締めます。
◇帯を結ぶので筋肉痛!?
次は左手で持っていた帯をポンと後ろに遠く飛ばして軽く押さえ、右手をパーにしたまま内側からちょっと帯をあげて仮ひもで結び、邪魔なところをはさんでおきます。そして後ろの帯の柄を出すのですが、これってよく見る光景ですよね。
そうしたら帯を四角く両手で押さえ、後ろの柄を決めて、帯あげで包んだ帯枕を真ん中に差し込みます。(写真3)。帯まくらが本当に真ん中に来ているかどうか手探りでさぐりながら、真ん中に来たと思ったら、帯と枕を持って一度背中から外していい位置まで上げ、そのまま離さないように全体を持って帯まくらのひもを前へ。この動作は手を後ろに回したまま行うので、体が硬いとちょっとツライです。先生によると、着物を着ているとジムに行かなくてもいいくらいだそうで、普段から体を柔らかくしていた方がよさそうですね。
前に回した帯まくらのひもは、さっきと同じように2回くらいからげて締めますが(写真4)、これは腰ひもと同じくらいしっかり締めないと帯が落ちてしまうので、固結びにして、伊達締めの上で中に入れてしまいます。着物を着て一番苦しいのがこのひもなので、強さは自分の加減で調整します。万が一ご飯を食べている間に苦しくなったら、化粧室で一度はずして直せばいい、と先生は簡単に教えてくださいましたが、果たして自分でやれるかどうか、挑戦ですね。
◇おたいこは難関!
次はもう一つの難関のおたいこです。(写真5、6)手を伸ばしておたいこの形を作ったら、一度手で押さえ、仮止めではさんでおいたクリップを外して、おたいこの中に帯の手先を入れます。これが難しいんですが、左手で入れたものを、右手を一度おたいこから外して左手を迎え入れる感じで、余った部分を入れ込みます。(写真7、8)そうしたら借りひもを取り、帯締めをおたいこの中に通して、前でしっかりと結びます。
このおたいこの作り方は、初心者用というより、先生が普段やっているやり方だそうです。最初はちょっと大変ですが、これに慣れると着物が早く着られるそうです。
先生は何分で着られるのか聞いてみたら、「5分もあれば」ということで、ビックリですね。
帯締めは、真ん中を押さえながら結ぶとキレイな形になるそうです(写真10)。
両端の房は上向きになるべく中心から遠いところに差し込む(房が下向きになるのはお葬式の形になるので注意)。中心から近くに差し込むと子どもっぽくなるそうですよ。
◇お直しは最後がいい
次に鏡で脇を見て帯あげを1回広げます。ここは自分では見えないけど人から見えるので、帯あげをきれいに大まかに3分の1くらいにして(写真11)、前はさらに半分に折って結び(写真12)帯の真下に入れる。普段着の場合は、帯あげが見えていると、子どもっぽく、やぼったい印象になるので、ほぼ見えないくらいがいいようです(写真13)。
そして最後に帯を整えます。体に平らなものを巻くと、どうしても斜めになってしまうので、下を引っ張って整え、襟の加減も内側から手を入れて最後に直します。私のような初心者は途中で気になって直したくなりますが、途中でやるとかえってぐちゃぐちゃになるので、とりあえず最後まで着てから直す。私はちょっと腰が高いので帯の下にシワができてしまったのですが(写真14)、先生は「これも可愛い」と言ってくださいました。補正するための腰布団もありますが、昔の映画を見ると、皆さんその人なりの着こなしをしていて、その方が逆に可愛らしいという先生の言葉を信じることにします。
◇着物を着てとにかく出かける!
ほぼ先生に手伝っていただいての着付けだったので、自分でちゃんとできるようになるのか不安ですが、それにしても着物は奥が深いですね。帯の段階になると、今はどこでどうなってるの? と思うけど、触ると分かるんですよ。着物を着たことで気分もすごく変わるし、自分がちゃんとした大人になれたような気がしました。
日本刺繍(ししゅう)が施された反物なども見せていただき(写真15)、普段着と華やかな場に出るときの着物の違いも教わりました。全体の色をそろえない方が着物らしく、そろい過ぎて完璧になると近寄りがたい雰囲気になってしまうことや、色を変えて柔らかさを出したり、少し色合いをくずした方が粋に見えるなど、着物ならではのコーディネート術も教えていただき、その奥の深さに、ますます興味が湧いてきました。
着心地もすごくよくて、しっとりとして暖かく、肩もすごく楽です。こんなふうに普段も着物を着られるようになれたらすてきですね。千谷先生がおっしゃっていたんですが、「着物を着たら、形はそんなに気にしないで、とにかく出かける。その人なりの着方というのがあるから、自分のスタイルを決めるんです。そうすると、この人はこうなんだなっていうのが個性になる」そうなので、私も自分の着物スタイルを見つけたいと思います。
2015年は新しい自分スタイルを見つけられた記念となる年になりました。感謝する気持ちを忘れずに、2016年! 心も体もキレイになれるように精進してまいります! 来年もどうか仲よくしてくださいませ。
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