「もうひとりの息子」の一場面 (C)Rapsodie Production/Cite Films/France 3 Cinema/Madeleine Films/SoLo Films
イスラエルのユダヤ人家族と、パレスチナ自治区のアラブ人家族。分断壁を隔てた紛争地域での子どもの取り違えという難しい題材でいながら、若者や母親の中に普遍的な姿を描き出した感動作「もうひとりの息子」が公開中だ。民族、宗教、国を超えて相互理解への希望を描き出している。昨年の第25回東京国際映画祭で「東京サクラグランプリ」と監督賞を獲得した。
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ユダヤ人一家の息子ヨセフ(ジュール・シトリュクさん)は、音楽好きで夢見がちな18歳。兵役のために受けた血液検査で両親と遺伝的にありえないという結果が出てしまう。二つの家族の両親が病院に呼ばれ、「子どもが入れ違っていた」と告げられる。もう一つの家族は壁を隔てた向こう側に住むアラブ人の一家だった。同じ街の病院で生まれた2人の子どもは、湾岸戦争の避難の混乱時に入れ違ったというのだ。これまでユダヤ人として生きてきたヨセフは兵役を免除され、ラビ(ユダヤ教の宗教的指導者)に「ユダヤ人ではないから改宗を」といわれてぼうぜんとなる。一方、入れ違っていた息子ヤシン(マハディ・ザハビさん)は医者を目指してパリで高等教育を受け、休暇で帰国した。ヤシンの一家では父母が口論になり、兄は強く動揺する。ユダヤ人一家の母親オリット(エマニュエル・ドゥボス)は、自宅にヤシン一家を招くことにする……という展開。
民族、宗教の問題を超え、二つの家族がどう向き合っていくのか。演技達者な俳優たちによって力強く演じられ、目が離せない。地域的に難しい問題が横たわっているが、息子たち、母親たち、父親たち……個人と個人のつき合いを見せ、また、若者が「自分とは何者か」に悩む姿も重ねて、普遍的な作品に仕上がっている。自分の子ではなかった衝撃と、これまで育てることのできなかった実の息子への母たちの愛情。憎むべき相手に歩み寄るまでの父たちや兄の動揺。アイスクリーム売りを通して心を開き合う息子たちの共振。感情のひだが繊細に描かれ、引き込まれる。息子が18歳という年齢設定もうまく機能した。ちょうど親の手を離れて自分の道を選択する時期である。内容のよさだけでなく、壁を隔てた二つの地域の暮らしぶりをリアルに知ることができるのも、見る価値を高めている。19日からシネスイッチ銀座(東京都中央区)ほか全国で順次公開。(キョーコ/毎日新聞デジタル)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、闘病をきっかけに、単館映画館通いの20代を思い出して、映画生活に突入。映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。
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