「旅人は夢を奏でる」の一場面 (C)Road North
フィンランドでハリウッド大作を押しのけて大ヒットした、ミカ・カウリスマキ監督のロードムービー「旅人は夢を奏でる」が公開中だ。35年前に生き別れた父と息子の再会と心の交流を、音楽を通じて描き出す。父親役を本国で人気のミュージシャンであり俳優のベサ・マッティ・ロイリさんが、息子役を「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」のサムリ・エデルマンさんが演じている。
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ティモ(エデルマンさん)はピアニストとして名声を得たが、仕事に没頭するあまりに、私生活では妻子に家を出て行かれた。そんなある日、ティモの自宅前に男が現れる。それは、3歳のころに音信不通になった父親レオ(ロイリさん)だった。世界中を旅してきたというレオは、嫌がる息子を無理やり連れ出して、ティモの知らなかった家族に会いに行こうと車で北へと向かう。生まれて初めて父と向き合ったティモ。型破りなレオに振り回されながらも、音楽が2人をつなげていく。そして旅路の中で家族の秘密が明かされていく……というストーリー。
この不器用でさえない父と息子が、なんとも人間味があふれている。レオ役のロイリさんはでっぷりとしたおなかで、役柄と同様、本当に糖尿病を患っているらしい。針金ハンガー一つで車上荒らしをする父だが、どこか憎めない。また、低音の魅力的な声は、一度聴いたら忘れられない。ティモ役のエデルマンさんもミュージシャンとしての顔を持つ。2人で歌うシーンでは、シャンソンの名曲「枯葉」を哀愁たっぷりに披露する。映画が進むにつれ、父親の息子を思う優しさと、息子の父親に対する気持ちの変化がジワジワと伝わってくる。旅路を通して、ティモは自分のルーツを知り、人生を振り返る。ティモが小さな息子のために必死になってたこ揚げをする姿が、レオの不器用さと重なって、とてもすてきなシーンになった。フィンランド北部の飾り気ない風景も魅力的だ。一緒にドライブした気分で、2人の人生に思いをはせ、胸が熱くなった。11日からシアター・イメージフォーラム(東京都渋谷区)ほか全国で順次公開中。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、闘病をきっかけに、単館映画館通いの20代を思い出して、映画を見まくろうと決心。映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。
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