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日本と台湾が共同製作した自転車がテーマのロードームービー「南風」(萩生田宏治監督)が公開中だ。日本人女性と台湾人の少女が自転車での旅を通して心を通わせながら成長していく姿を描いており、淡水や日月譚といった台湾の風光明媚な観光地や日本のサイクリングロードとして有名な広島県と愛媛県を結ぶ「しまなみ海道」などの景色も楽しめる。恋人にふられ、仕事では希望しない部署に異動させられた人生“崖っぷち”の主人公・風間藍子を女優の黒川芽以さんが好演。黒川さんに台湾ロケや今作のテーマでもある自転車について話を聞いた。
◇クロスバイクの魅力に夢中
映画でクロスバイクに乗って旅をする藍子役を演じた黒川さんは、「もともと乗り物が好きで、止められたので取っていませんがバイクの免許を取ろうとしたぐらい(笑い)。自転車も爽快に走るのが大好き」だという。そして、「クロスバイクは持っていなくて“ママチャリ(シティサイクル)”だったんですけど、撮影後に帰国してからクロスバイクを買いました」とすっかりクロスバイクの魅力にはまったことを笑顔で明かす。
日台合作の今作では、物語の大半が台湾で撮影されている。今回が初の海外ロケとなった黒川さんは、「海外でロケするのも初めてでしたし、まさか日本語と台湾の言葉でしゃべり合っているのにうまくいっている台本があるというのにも驚きました」と出演が決まった時の印象を振り返る。「日本語と台湾の言葉なのにだんだん意思の疎通ができてしまうというのは大変だと思ったけど、面白いなと思い、すごく興味を持ちました」と台本に目を通した時から作品に引かれたという。
初めての海外撮影では「日本人の役者さんがいないというのも初めてで、(言葉を気にせず)話せる人がいなく、一人でポンと(台湾に)行ったという感覚もありました」と感じた黒川さんは、「コミュケーションを頑張ってとるけど、やっぱりちょっとはズレが生じてしまう」と当時の悩みを告白。共演シーンが多かったトントン役のテレサー・チーさんやユウ役のコウ・ガさんの印象を「非常にマイペースでいい方でした」といい、「私が実際に長女ということもあって、テレサちゃんは途中から自分の妹のように思っていました」と良好な関係が築けたことを喜ぶ。
◇藍子は演じるより“生まれてきた”感覚
映画内の移動手段は自転車で、自分でこがないと自転車は進まない。撮影では自転車ならではのよさや苦労などがあったのだろうか? 「自転車が“共演者”なので常に一緒だった」と話す黒川さんは、「台湾のすてきな名所や景色も見せている映画で、遠くから引きなどいろいろなアングルから撮っているのですが、自転車を長いこと乗るので結構大変でした」と苦労を明かすが、「乗り物が好きなのですごい気持ちよかった」と笑顔を見せる。そして、「向こうで自転車に乗る機会はなかなかないことで、すごくいい経験でした」とうれしそうに話し、「ちょっとした移動の時は『自転車借ります』といって、なるべく藍子の気持ちになろうと(自転車に)乗ったりしました」と役作りについて語る。
さらに「(自転車で)走っている時は景色もきれいで気持ちよく、そのまま藍子を経験していた感じでした」と役柄そのものになりきっていたという。「つらいけどすてきな景色を見たり自転車で走ったりすることで、自分を前に前に持って行きながらでもたまに落ち込むというシーンも出てくる。でも一生懸命2人とコミュニケーションをとろうとしている藍子の姿が、あんなに画面から伝わものなのかと思いました」と自身も驚いたという。
黒川さん自身「藍子に寄り添った」と表現するほど役に入り込んでいたそうだが、役作りについては萩生田監督と何度も話したという。「役に入る時に全部を決めつけないで入るようにしています。全部決めつけちゃうと現場に行った時の空気や相手の出方によって変わるものなのに、それを変えられなくなっちゃうのが怖いから、伸び縮みができるようにある程度“ゆとり”のような部分を残しておく」と役作りへのスタンスを説明。「作っている感覚がなかった」と表現する藍子役について、「ポンと台湾に行き現場でも(共演の)2人と片言の英語でコミュニケーションをとって、台湾語で話しているのを見たり夜に一人で台湾の街を歩いてみたりして、作るというよりそのままにじみ出てしまった感じ」と振り返る。そして「その場の空気を感じたいからこそ、技術にとらわれすぎないようにしたかった」と本音を語る。
◇旅には何かを変える大きな力が
「全部のシーンに相当な思い入れある」と力を込める黒川さんに、とりわけ印象に残ったシーンを聞くと「ママチャリで無数のバイクに紛れて交差点を渡るシーン」を挙げる。「(台本に)普通に紛れて渡るとは書いてありましたが、スクランブル交差点のような大きな場所でやるとは思っていなくて、しかも時間帯も通勤ラッシュ」と予想以上の事態に戸惑ったそうだが、「カメラが遠くにあるから『日本人が何をしているんだ』という状態で撮影が始まって、バイクの中、一人自転車で走っていたのは思い出です」とこともなげに語る。
クライマックス近くの印象的な場面の一つに藍子が自転車に乗って電車を追い掛けるシーンがあるが、「実際に追い掛けています」と黒川さん。「2回ぐらいやったのですが、あの後は本当に立てなくなってしまい足が(筋肉痛で)ゆるゆるしていました(笑い)」と数あるシーンの中でも最も過酷だったことを打ち明け、「1回目は気にしないでほしいのですが、2回目に映画を見たら足の回転数を見てほしい。エアロバイクを高速でやっている感じで相当回転しています」と笑い、「異国で叫びながら電車を追いかける。かなりエキサイティングなシーン」と表現。「追いつけるかなとも思ったりしましたが、(電車の)スピードが上がっていくと全然追いつけなくて最後は米粒みたいになっちゃいました」と微笑む。
映画の見どころを「ロードムービーでもありドキュメントのような感じにもなっていると思う。最近なかったような映画だと思っています」と語る黒川さんは、「価値観を大きく変えるにはただ毎日過ごしているだけではなかなか難しい。自分の価値観や性格とかを大きく変えるのは旅ぐらいの刺激がないと変わらない」と持論を展開。「私も高校生の頃にマウイに行ってすごく大きく変わった経験があるので、(旅には)そういう“破壊力”があると思う。まずは映画で一緒に(旅に)行った気持ちになれると思います」とアピールした。映画はシネマート新宿(東京都新宿区)ほか全国で順次公開。
<プロフィル>
1987年5月13日生まれ、東京都出身。93年にCMデビューして以降、数多くの映画やドラマ、舞台などに出演している。主な出演作品は「グミ・チョコレート・パイ」(2007年)、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」(09年)、「横道世之介」(13年)など。今年は「ぼくたちの家族」「KILLERS」「ねこにみかん」「福福荘の福ちゃん」などに出演し、主演作としては「劇場版 東京伝説 歪んだ異形都市」「青の光線」が公開。染谷将太さんとダブル主演を務める「ドライブイン蒲生」の公開を控える。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)