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クリント・イーストウッド監督、アッバス・キアロスタミ監督など海外の作品で引っ張りだこの俳優の加瀬亮さんが出演した韓国映画「自由が丘で」(ホン・サンス監督)が、13日から公開される。思いを寄せる彼女を追ってソウルの街をうろうろする加瀬さん演じる男性のエピソードが、落とされて順番がバラバラになった手紙という形で描かれる。欧州で絶大な人気を誇るホン監督の遊び心いっぱいの作品だ。
クォン(ソ・ヨンファさん)は、かつて勤めていた語学学校で封筒を受け取る。それは、モリ(加瀬さん)からの手紙だった。2年前、モリとクォンは語学学校の同僚で恋人同士だった。モリはプロポーズをするが、クォンは体調不良を理由に断った。日本に帰国したモリだったが、彼女のことがあきらめ切れず、再びソウルにやって来た。近くのゲストハウスに泊まってクォンを探すが、彼女はいない。クォンを探す日々が手紙につづられていく。その手紙はクォンが落とした拍子にバラバラになってしまった。拾い上げた順番のまま、カフェ「自由が丘」に立ち寄ってそのまま読み始めると……という展開。
この映画は先が読めない。それどころか起承転結がバラバラだ。でも、そこが面白い。モリが泊まった宿で出会った米国帰りの男サンウォン(キム・ウィソンさん)。カフェの女性オーナーのヨンソン(ムン・ソリさん)。モリと一体どんな関係なのか。エピソードの順番が入れ替わっていて、登場人物の関係は前後行きつ戻りつする。しかし、時間が巻き戻る回想シーンを見ているような感じとは全く異なる。つながりを失って断片となった時間が流れ、脳に心地よい違和感を生み出してくれる。人が完全に分かり合えないことのおかしさを描くのがサンス監督の持ち味だが、それが不思議な形で発展させたというべきか。人と人が持つ時間の大切さは、その一瞬のみにある。劇中モリが持ち歩いている文庫本「時間」(吉田健一さん著)は、加瀬さんの私物で偶然持ってきていたのだという。時間を断片にした今作にピッタリのモチーフとなった。シネマート新宿(東京都新宿区)ほかで13日から公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。今月公開作で一番泣けたのは、シンガポールの映画「イロイロ ぬくもりの記憶」(アンソニー・チェン監督、13日から全国順次公開)でした。