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主演俳優のディーター・ハラーフォルデンさんがドイツ映画賞史上最高齢の最優秀主演男優賞を受賞して話題となった映画「陽だまりハウスでマラソンを」(キリアン・リートホ−フ監督)が、21日から公開される。伝説のランナーが、最愛の妻と仲間の応援を受けて、ベルリン・マラソンに挑む姿を描く人生応援歌だ。
1958年、五輪のマラソンで西ドイツに金メダルをもたらしたパウル(ハラーフォルデンさん)は、今やすっかり年老いてしまった。妻マーゴ(タチア・サイブトさん)の病気をきっかけに、娘のビルギット(ハイケ・マカッシュさん)の勧めで、しぶしぶ老人施設に入居した。管理主義的な施設スタッフや無気力な入居者たちがいて、合唱やつまらない工作に時間を潰す日々に嫌気が差したパウルは、ベルリン・マラソンに出ることを目標に掲げて久しぶりに走り始める。あきれていたはずのマーゴも名サポート役に復帰。笑って見ていた入居者たちだったが、パウルが誰なのかが分かると、当時のことを思い出し、応援に回る。しかし、施設側から理解を得られずに……という展開。
ドイツの国民的喜劇俳優ハラーフォルデンさんに目がくぎ付けになる。ジムとランニングで役作りをし、実際のベルリン・マラソンで撮影に臨んだというエピソードももちろん驚くが、妻マーゴとのシーンが絶妙だ。言い争った後のため息。「走りたい」と妻に懇願するときの、奥に信頼を宿した目。自分たちを「風と海」と例える夫婦が、同じ栄光を享受し、同じように年月を重ねてきた風情が、笑顔や仕草一つ一つに込められている。老夫婦の深い絆は、「過去の話ばかりしてゴメン」と娘に謝るほどのたくさんの思い出に支えられ、同時代を生きてきた入居者たちに力をもたらす。とはいえ、キャビンアテンダントとして多忙な娘との関わりにはシビアなものがあり、父親と一緒に住むことを娘が拒むシーンも。施設側の人物は「老人はこういうもの」と型通りで、終の棲家(ついのすみか)としての過ごし方を押しつける。万国共通の、老いていない者と老いた者との隔たり。しかし、そんな周囲をよそに自分を貫こうとするパウル。颯爽(さっそう)と走る姿に、すてきながんこジジイの生きざまがあった。ヒューマントラストシネマ有楽町(東京都千代田区)ほかで21日から順次公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。28日公開「カフェ・ド・フロール」の主演バネッサ・パラディさんの演技に感動しました。