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昨年の東京国際映画祭で「アジアの未来」部門作品賞を受賞したイラン映画「ボーダレス ぼくの船の国境線」(アミルホセイン・アスガリ監督)が17日から公開される。イランとイラクの国境沿いの立ち入り禁止区域にある古い船。そこを根城(ねじろ)にする少年と突然の侵入者たちとの緊迫と交流を、言葉を超えた緊張と感動の中に描き出す。
イランとイラクの国境沿いの川。一人の少年(アリレザ・バレディさん)が大きな船の中で、魚や貝をとって、それを売りさばいてたくましく暮らしていた。ある日、誰もいないはずの船で人の気配がする。偵察に行ってみると、同じくらいの年齢の少年兵がいた。少年兵は銃で少年を脅し、勝手にロープを張って、船の半分を占拠した。「銃なんか怖くない」と息巻く少年だが、言葉が全く通じない。ところが爆撃音が鳴り響いた日、少年兵が走り去っていく。しばらくして、今度は赤ん坊の泣き声が聞こえて……という展開。
古い船という舞台に、最初は登場人物が一人。冒頭から数十分間、せりふはなく、まるでサイレント映画のようで、少年の行動をじっくり見つめることになる。侵入音で一気に緊張感が走る。やがて、次々に侵入者が現れる。ペルシャ語とアラビア語と英語が飛び交うが、言葉は無力で、彼らはけん制し合う。戦争は国と国、あるいは民族同士の対立だ。背景にそんなことを感じさせながら、人が個と個となったときの命懸けで気持ちを通じ合わせる様子が描かれる。少年は相手をじっくりと観察した。この映画は、平たくいうと、人が人に恐怖心を持つときの状況と、その恐怖心をどうやって乗り越えていくのかが描かれている。対立を飛び越える装置として、まっさらな存在である赤ん坊を使って、ダイレクトに感情に訴えかけてくる。赤ん坊の泣き声が、相手との垣根を壊して、人にうそのない涙を流させる。心が通じ合う瞬間に、心が震える。プロの俳優を使わずに佳作を作るイラン映画の流れを受けて、助監督時代が長かったアスガリ監督がデビュー作として撮影した。イランではデビュー作を製作するとき、撮影許可のためにベテラン監督のサインが必要だという。今作の監督のアドバイザーには、名匠アボルファズル・ジャリリさんが名を連ねている。新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほかで17日から公開。(文・キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。いまBS12で再放送されている昭和の名ドラマ「ありがとう」を楽しんでいる。