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7日に公開されると2週連続で興行成績1位を獲得し、ヒット中の「劇場版 MOZU」(羽住英一郎監督)。警視庁公安部の捜査官・倉木尚武役で主演した西島秀俊さんと、倉木に異常なまでに関心を持つ裏稼業の警備会社役員・東和夫(ひがし・かずお)を演じる長谷川博己さんが、映画公開後に初めて顔を合わせた。2人が撮影の裏話やお互いの俳優のスタンスについて、また2人で演じてみたい作品について語り合った。
◇長谷川「西島さんは主に立つ器の人」
――お互いは相手のことをどういう役者さんだと思っていますか。
西島さん 僕は大河ドラマ「八重の桜」(2013年)の撮影で1年間一緒でしたけれども、そのときのナイーブな演技が素晴らしかった。「MOZU」の現場で長谷川さんをよく知っている役者さんたちは、あいつのすごいところはもっといっぱいある、もっと違う面が今後どんどん出てくるといっていて。僕も普段の長谷川君を知っているので、まだ全然違うところがいっぱいあるんだよなと思っていて。そうしたらそのあと彼は大活躍で、とにかく役の振り幅がものすごくて。そういうのを見ていると、やっぱり刺激を受けます。自分もそうやっていろんなものに挑戦したいと思うし、単純にすごいなと思いますね。知り合ってからでもありとあらゆる役を一気にやっていて。想像力と創造力、イマジネーションと作り上げていく力の両方をどれだけ持っているんだ、と思います。
長谷川さん 僕はこの世界に入る前から西島さんの出演している作品をずっと見ていて、そのスタンスを尊敬していました。共演できることとなってうれしかったですし、それから、西島さんの役者としての生き方と役の作り方というのはどういうものかをずっと見させていただいていて。芯がきちんとあってポリシーがある人だなとずっと感じています。
作品のためにとにかく何でもする人ですね。こういう人が主に立つ器の人なんだな、と。僕は「MOZU」の東のように脇で自由に楽しめたりするんですけど、それはどんと構えている中心の人物がしっかりしていないといけないわけですからね。僕が今度そういうこと(主演)をやることになったときには、ちゃんとそういうふうにしなきゃなと勉強になりましたし。西島さんのスタンスは見ていて、憧れますね。
◇西島「長谷川君は映画の本質を分かっている」
――西島さんは以前、「MOZU」での東のキレ方がすごかったとおっしゃっていましたが、改めてどうすごかったんですか。
西島さん 長谷川君が登場するのは一番危ないシーンなんですよ。撮影していて、爆破が一番身近で起きるシーンとか、車がものすごいスピードでぶつかっているシーンとか。その中であの瞬発力であの演技をよくやれるなという。必ず笑い話にしちゃって申し訳ないんですけど、(見ていて)うれしくなっちゃうんですよね。いや、(僕には)できないと思いますね。目の前でとんでもないことが起こっているときに、笑いと死が隣り合わせにある演技をするというのはすごいなという。
「MOZU」の中で、特に劇場版は東がこの作品を豊かにしてくれていて、やっぱり東がああいうふうにしてくれないと、ずっと重くて暗い話になってしまう。そんな中で、東が出てくるとみんなうれしいし、何か華やかで映画が楽しくなってみんなが笑うという。そういうところ(役目)をきっちり長谷川君が受け持ってくれているので、「MOZU」は豊かな大きな映画になったなと感じていて。ちょっと理屈っぽくいっていますけど、本当にすごいなと思いますよ。
長谷川さん いやいや……(と恐縮)。
西島さん 絶対に分かってやっていますよね。長谷川君は映画をものすごく見ている人なので、映画というものの本質の一つである祝祭、エンターテインメント、みんなが楽しむものだというところをつかんでいるんじゃないですかね。長谷川君の作品って見ていてどの作品も楽しい。それは長谷川君の才能だな、と思いますね。
◇長谷川「現場では西島さんの目つきが違った」
――東はキレキャラでしたけど、キレ方のコツはあるんですか、
長谷川さん コツはないんですけど(笑い)。皆さんがそういう状況を作ってくださいましたからね。僕もフィリピンのロケ地に着いた時、すでに西島さんの目つきがちょっと違ったんですよね。気温や湿度も高く、スタッフも過酷な状況でみんな日焼けしていて、戦場にいるかのような雰囲気になっていて。そういう状況に僕が一人入ると、自然と高揚してくるというか。スラム街のようなところで高速道路の通行を止めていて、そこからカーチェイスのシーンをやるとなったときに、やっぱり(気持ちが)乗りますよね。倉木も血だらけになっていて、死にそうになって鎖につながれている。そういう状況に置かれたら気分が高揚して自然とそういう雰囲気になってくるなというのはあります。こういう現場ではなかったら、もしかしたら違う芝居になったかもしれません。
◇西島「長谷川君に関してはリミッターがなかった」
――そんな雰囲気の中で東の名フレーズ「チャオ!」も生まれたんですか。
長谷川さん 「チャオ!」は西島さんがいないシーンでしたけど、羽住監督は東に、ちょっと不思議な人物というイメージを持っていて。自分で思っていることを果たしてそのままやっていいのかなという思いはずっとあったんですけれど、それを監督がずっと見ていて開放してくださったなという気がしています。
西島さん 監督は喜んでいたよね。役者には自由とはいえ、どこまでやっていいのかという思いは絶対にあるわけで、そこは作品のフィクションの度合いや、どこまでリアリティーが設定されているのかを考えますけど、羽住監督はやっぱり長谷川君が演じる東がすごく好きだったから、長谷川君に関してはもうリミッターがなかった。テストでやって、本番でやらないと「なんでやらないんですか」って怒られたとか。
長谷川さん そうそう。リアルを飛び超え過ぎちゃったら止められるのかなと思っていたんですけど、逆にそのままやってくれとなったので。でも他のシーンで止められた人はいるんですか?
西島さん いや、そんなことはなかった。確かに基本的にみんな好きにやってくれというのだったから、(とくにキレたように見えたのは)単に長谷川君の瞬発力がすごかったっていう話では(笑い)。東は現場のみんなも好きなキャラクターだったし、ある意味、「MOZU」の象徴的な役でしたね。
◇長谷川「たけしさんは寝ているだけで貫禄があった」
――ダルマ役でビートたけしさんが出演されていますけれど、長谷川さんはたけしさんとの共演はいかがでしたか。
長谷川さん 最初に対面するシーンで実際にたけしさんがベッドに寝ていらしたんですよね。映画では誰が寝ているかというのは編集で分からなくしたんだと思いますけれど。台本ではたけしさんが寝ているシーンから僕の方に(カメラが回る)という感じだったと思います。
西島さん たぶん(ダルマは)まだ姿を見せないように編集したんでしょうね。
――西島さんは、たけしさんの存在感はすごかったとおっしゃっていましたが。
長谷川さん やっぱりすごいですよ。ダルマをやれる人は日本で考えたらたけしさんしかいないんじゃないですかね。本当にそれぐらいすごいなと思いました。寝ているだけで貫禄がありましたからね。
◇西島「笑い過ぎて死ぬかと思った」シーンとは
――西島さんが長谷川さんとの共演シーンで笑いをこらえるのが大変だったといったシーンがあったとか。
長谷川さん (第2シーズンの)WOWOWで放送した、東が部屋からヘリコプターで去っていくシーンじゃないですか。
西島さん そこ。あそこは耐えられなかったな(笑い)。般若のお面を外したら長谷川君が同じような顔をしているんですよ(笑い)。絶対にわざとなんだけど。あれは笑ったな。現場でも吹いて、吹いて。あとささやきもあって、ふざけているんじゃなくて真剣にやっているんですけど、あれがおかしくておかしくて。あそこは一番笑ったね。オーケーが出ないかと思った。撮影が別日になるかと思ったくらい。(笑い過ぎて)死ぬかと思った。
――そこは長谷川さんの計算だったんですか。
長谷川さん いや、笑わそうとして計算なんかしてないですよ!
西島さん 絶対に思っていたよな、あのときは笑わせようと(笑い)。
長谷川さん 思ってないですよ(笑い)。でも狂気と笑いというのは紙一重なんだな、と。
西島さん なるほど(笑い)。
◇長谷川「夢が一つかなった」
――「MOZU」は長谷川さんにとってどういう作品になりましたか。
長谷川さん こういった大人の男たちと一緒にやれる映画というのは、僕はとてもやりたかったことなので、僕にとって夢が一つかなったな、と。こういう作品をやったことが僕の人生に将来必ずいい作用をするだろうなと思いました。西島さんをはじめ豪華なキャスト、今後、日本の映画界を背負っていく皆さんが出ていらっしゃるじゃないですか。そういう人たちと出会えて、また今後、その人たちとどこかの現場で出会ったりして、あのときああだったという話ができるなという気がしますね。
――「MOZU」同窓会のような。
長谷川さん そうですね。男くさい、ハードボイルドをやるガチッとした人たちが集まっている。その中にキャストの一人として加われたことが光栄です。僕は(西島さんが主演したドラマ)「ダブルフェイス」がすごく好きで、プロデューサーさんに、もし同じような形でやることがあったらぜひお願いしますといったことが「MOZU」に出演するきっかけになったと思っていて。きっとそれで今回、声を掛けてくださったと思うので。
――西島さんは、羽住組で次に何を撮りたいですかと聞いたときに「ノワール(闇社会を題材にした映画)をやりたい」とおっしゃったんですが、長谷川さんはいかがですか?
長谷川さん ノワールいいですね。「MOZU」の劇場版の最後の方もノワールチックだったじゃないですか。あの雰囲気で全編撮るというのも面白そうだなと思いました。
西島さん 裏切りがね。「MOZU」は裏切りがないから。裏切りが撮りたいね。仲間が事情があって裏切る……ノワールには裏切りがないと。
長谷川さん 裏切りと復讐。いいですね。「ダブルフェイス」的な。
西島さん やりたいですね。男2人の企画があったら長谷川君とぜひ。いや、この「MOZU」のメンバーで、ぜひ、またやりたいね。
◇西島「長谷川君の活躍に刺激を受けている」
――お互いにエールを。
西島さん ここ数年の長谷川君の活躍は本当に刺激を受けているし、今回、2年間「MOZU」をやらせていただいて本当に楽しかったので、また、長谷川君と一緒に仕事できるように頑張ります。
長谷川さん とにかく僕は西島さんの背中をずっと見続けて追い掛けていきたいですし、西島さんが今後何をされるのか、すごく気になりますし、今後もそういう存在としてずっといてほしいなと思っています。
――お二人の今後のご活躍を期待しております。
<西島秀俊さんのプロフィル>
1971年3月29日生まれ、東京都出身。94年、「居酒屋ゆうれい」で映画デビュー。主な出演作に「ニンゲン合格」(99年)、北野武監督の「Dolls」(2002年)、「帰郷」(05年)、「サヨナライツカ」(10年)、「CUT」(11年)、「ストロベリーナイト」(13年)、「脳内ポイズンベリー」(15年)など。16年の公開待機作に「女が眠る時」「クリーピー」がある。
<長谷川博己さんのプロフィル>
1977年3月7日生まれ、東京都出身。2002年に舞台「BENT」で初舞台。11年、「鈴木先生」(テレビ東京系)で民放ドラマ初主演。また同年、高視聴率を記録した「家政婦のミタ」(日本テレビ系)では優柔不断な父親役を演じさらに注目を集めた。映画出演作は「地獄でなぜ悪い」(13年)、「舞妓はレディ」(14年)、「ラブ&ピース」「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN 前後篇」「この国の空」(15年)など。16年には出演作「セーラ服と機関銃‐卒業‐」「二重生活」「シン・ゴジラ」が公開予定。
(インタビュー・文・撮影:細田尚子)