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女優の松雪泰子さんが主演する「連続ドラマW 5人のジュンコ」がWOWOWで放送中だ。5人のジュンコが、その名前が元で悪意の渦へと巻き込まれていくサスペンスドラマ。原作を手がけた真梨幸子(まり・ゆきこ)さんは2005年、「孤虫症」で第32回メフィスト賞を受賞して作家デビューし、尾野真千子さん主演で「フジコ」としてドラマ化された「殺人鬼フジコの衝動」は50万部を超えるベストセラーとなっている。真梨さんは、「告白」などで知られる湊かなえさんらとともに「イヤミス」(読後感が嫌な感じのミステリー)の旗手として注目されている。真梨さんに、作家になった理由やイヤミスの旗手と呼ばれること、「5人のジュンコ」の執筆秘話などを聞いた。
◇5人の“ジュンコ”の物語
「5人のジュンコ」は、真梨さんの同名小説(徳間書店)が原作で、松雪さんのほか、ミムラさん、西田尚美さん、麻生祐未さん、小池栄子さんが5人の“ジュンコ”を演じる。物語は、5人の男の連続不審死事件の容疑者として佐竹純子(小池さん)が逮捕されるところから始まる。事件の真相を探るため取材を開始したジャーナリストの田辺絢子(松雪さん)は、佐竹に篠田淳子(ミムラさん)という親友がいることをつかみ、専業主婦の福留順子(西田さん)と知り合う。数日後、田辺はすでに亡くなっている守川諄子(麻生さん)の息子が事件の被害者の一人だと推測するが……という内容。WOWOWプライムで毎週土曜午後10時に放送。
◇イヤミスという肩書きをもらった
真梨さんは“イヤミスの旗手”と呼ばれることについて「すごくうれしいです。肩書きをいただくと、読者も見つけやすくなるので。どうやって本を売っていくかというときに、こうやって『イヤミス』といういわゆる見出しをつけてもらったことによって、読者も『こういった作品が私は読みたかった』と分かりやすくなったと思いますので、すごく助かってます」と笑顔で語る。
同じく“イヤミスの旗手”といわれる湊さんに対しては「湊さんにはずっと先を行ってもらって、私はその後ろをちょろちょろと……。“風よけ”に湊さんになってもらって(笑い)。2番手が一番いいスタンスなんですよ、私のキャクター的にも」と謙虚に語る。
◇テクニカルライターの技術を小説に生かした
真梨さんは大学の映画科で映画を学び、卒業製作はドキュメンタリーを撮影したという。そのことが小説の作風に影響を与えた。「いわゆる“モキュメンタリー”、フェイクドキュメンタリーといわれるんですけれど、ドキュメンタリーに見せかけたフィクションを小説では一番得意としています。大学時代のドキュメンタリーとベタなエンターテインメント作品が好きな元々の好みがいい感じで融合されて今の作風が構築されたと思うんです」と自己分析する。
卒業後は大手メーカーに就職。製品のマニュアルを作る部門でテクニカルライターの仕事を担当した。「テクニカルライターというのは、ユーザーに分かりやすく、仕様書を翻訳するという技術なんです。会社に入ってテクニカルライターとして物事を分かりやすく伝えるということを長年やったお陰で、それが今の小説に生きてきたような気がします」と語る。
具体的には小説の構成の仕方に影響があった。「文章がうまいへたじゃないんですよ。いかに間違えないようにするか。ミスリードしないようにしなくちゃいけないんです。正しく操作させるように言葉を簡潔に一文を短くというのをずっとやってきたお陰で、あえてミスリードをするテクニックを身につけたような気がします。多分、この説明とこの説明を反対にすればミスリードができるんだろうな、読者はきっと違う方向に思い込みをしてくれるだろうなというのが、テクニカルライターをしたときに構築した技術だと思いますね」と明かした。
◇デビュー後の方が大変だった
会社を辞めたあと、マニュアルの制作プロダクションに転職。その後、フリーでテクニカルライターを何年か続けた。だがフリーライターは「体力勝負で本当に50、60歳になっても続けられる職業じゃないと実感した」という。模索する中で、文学賞の公募を見つけた。「本当に甘い考えと切羽詰まったものがあって。ライターとしては才能的にも体力的にも限界かなと思ったので、とにかく次の道を模索しなくちゃいけないなというときに、一緒に仕事をしていた人が公募の情報を持っていて。賞金に目がくらんで、『私、小説家になる』って。書き始めて5年でようやくメフィスト賞に拾っていただいた」と無事に作家デビューできた。
だが、「デビューしてからが実は大変でした。食べられなくて、2足、3足のわらじを履いてましたね。ライターをやりつつ、バイトも続けつつ、派遣にも登録して……」と苦労もあった。「何度投稿しても最終選考の手前とか3次選考とか、いいところまで行くんですけれど、なかなかそこから先に進まなくて……」と悩んだ時期もあった。
そんなときに「人間、心が弱るとやっぱり占いとかにすがっちゃうじゃないですか。地元のデパートの上にある占いコーナーにふらっと行って。そうしたら、まず『小説家としてデビューはできる』とは言ってくれました。でも、『あなた当分大変ですよ。2011年か2012年くらいに運気が上がるので、それまで大変かもしれないけれど、それに耐えたら大丈夫』と。それで私も各担当さんに強がって『あと数年で私の時代になりますよ』って結構言ってたんです(笑い)」と今でこそ笑い話になったが、苦労を明かす。
その経験もあって、「偶然か言霊(ことだま)なのかもしれないですけれど、野望とか前向きなことって言葉にすべきだと思いました。ビッグマウスと言われるかもしれないですけれど、言葉にすると自分もモチベーションが上がるというか、どんな境遇でも耐えられる。そういう意味でも言霊ってあるのかなって思いました」と力を込める。
◇篠田淳子が自己アピールしてきた
「5人のジュンコ」の佐竹純子の事件は実際にあった木嶋佳苗事件をモデルにしている。真梨さんは「いろんなところから事件についてコメントを求められて、これはやっぱり一度消化して私なりの木嶋佳苗像というのを答えとして出しておかないと。それには、一つ作品を作っておこうというのがきっかけです」と書き始めた理由を語る。「彼女(木嶋佳苗)は生まれ持ってのサイコパスなので一般人が感化されてもいけないし、理解してもいけない類(たぐい)の人だと思っていて。そういうスタンスがあったからこそ、佐竹純子を小説の中心に持ってきたくなかった」という。
そこで小説は田辺絢子や篠田淳子を中心に据えることにした。「学生時代、佐竹で篠田だから出席番号順も近くて、篠田さんは一般的な人だったのに巻き込まれた被害者という形で書いていたんですけれども、書いていくうちに篠田さんがどんどんアピールしてきて、佐竹事件のエピソードゼロのようになって。私も書いていて『えっ、あなたってそうだったの?』って。篠田さんは勝手に主張してきました」とキャラクターが一人歩きし始めた。
真梨さんは「私はプロットを作らないんです。それはそういう醍醐味(だいごみ)があるからなんですね。勝手に登場人物が自己アピールしてきてくれるので、私は賽(さい)の目に従って物語が進んでいくという手法を取っています」という。「この作品は連載していたんですけど、1回、原稿用紙50枚の前後編でとりあえず一人のジュンコを書いて、終わったら次を考えるという。あとはなすがままです。その作業が面白いというのもあるんですよね。どうなっていくか(書いている)自分でも分からない」と自身も楽しみながら筆を進めている。
◇本音や裏の声を表現したい
今後、真梨さんはイヤミスを書き続けるのだろうか。「私、恥ずかしいんですよね、褒めるのが。人と対峙(たいじ)すると長所より欠点を見つけてしまう。人物の造形を表現するにもまず欠点から書いてしまうので、それがどんどん積もり積もって、嫌な話になってくるんだと思います」といい、「でも本音の部分なんですよね。(海外ドラマの)『デスパレードな妻たち』が本当に好きなんです。本音や裏の声を封印するのではなくて、そのまま表の声にしている。私の小説も、多分ほかの小説とそこが違うのかなと思いますね」と自己分析した。今後、真梨さんがどんなイヤミスを生み出していくのか、注目したい。
<プロフィル>
真梨幸子(まり・ゆきこ) 1964年生まれ、宮崎県出身。1987年、多摩芸術学園映画科(現、多摩美術大学映像演劇学科)卒業。2005年、「孤虫症」で第32回メフィスト賞を受賞してデビュー。これまでに「殺人鬼フジコの衝動」や「5人のジュンコ」などのヒット作がある。現在、「祝言島」(小学館「きらら」)、「カウントダウン」(宝島社「大人のおしゃれ手帖」 )、「私が失敗した理由は」(講談社「小説現代」 )を連載している。
(インタビュー・文・撮影:細田尚子)