インタビューに応じた西野麻衣子さん
ノルウェー国立バレエ団のプリンシパルとして活躍する日本人バレリーナの西野麻衣子さんに密着したドキュメンタリー映画「Maiko ふたたびの白鳥」(オセ・スベンハイム・ドリブネス監督)が、20日に公開された。25歳から同バレエ団のトップとして走り続ける一方、33歳で第1子を出産。バレリーナとして、母として、タフな日々を送る西野さんの素顔に迫った。
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◇キャリアと出産 揺れる心
西野さんは、6歳からバレエを始め、15歳で名門英国ロイヤルバレエスクールに留学。19歳でノルウェー国立バレエ団に入団し、25歳で同バレエ団のプリンシパルに東洋人で初めて抜てきされた。172センチの長身と長い手足から繰り出されるダイナミックでエレガントな踊りが魅力で、芸術活動に貢献した人に贈られる「ノルウェー評論文化賞」も受賞している。
ドキュメンタリー映画は、そんな西野さんの活躍を新聞で知ったノルウェー人女性のドリブネス監督が2010年から4年間にわたって密着。欧州の一流バレエ団のトップとしてストイックに邁進(まいしん)する西野さんの日常をカメラで追う一方、2013年に子供を授かったことで、キャリアと出産の間で悩み、心揺れる、等身大の30代女性の姿を映し出している。
◇予期せぬ妊娠 「ママになる」決意
西野さんは26歳の頃、オペラハウスで舞台監督をする7歳年上のノルウェー人のニコライさんと結婚。「いつかは子供がほしい」と考えていたが、バレリーナとして常に体を極限まで鍛え、厳しい競争の中でトップとして君臨し続けるには、出産は大きなブランクとなる。
「妊娠による体形の変化、そして自分がいない間に、どんどん他のダンサーが力をつけていく。元のポジションに戻るには、今よりも何倍も努力しないといけないんだなっていう思いがありました」と不安だった胸の内を明かす。
しかし、33歳で予期せず妊娠。「そのころ、すごく大変な演目を踊っていて。こんなにガリガリなのに妊娠しているなんて信じられなかった。でも初めてエコー(でおなかの中の赤ちゃん)を見たときに『ああ、ママになるんだ』と実感して、今だったら頑張ってママにもなれると思いました」と迷いが消えた。
◇出産2日前までトレーニング
母になる決意とともに、心に誓ったのが、再びプリンシパルとして復帰することだった。そのため、産休中も「出産2日前まで毎日トレーニングは欠かさなかった」といい、「筋トレやピラティス、それから大きなおなかでトウシューズも毎日履いていました。何年やっていても、トウシューズを常に履いていないと足が忘れてしまうんです」と努力を怠らなかったという。
そして、長男アイリフ君を無事出産。体重は妊娠前から13キロ増えたというが、「トレーニングをしていたし、もともと余分な脂肪がついていなかったので、自然と減りました」と産後4週間で体形は元通りに。そこから、復帰作を難易度の高い「白鳥の湖」と定め、産後6週目からトレーニング、8週目からは本格的なバレエのレッスンを再開し、再びプリンシパルとして大きなステージに挑んだ。
◇息子の存在が力に 「もっと頑張らないと」
西野さんは、これほどまでに自身をかき立てる原動力を「舞台に立てる幸せ」だといい、「バレエが好きで愛しているからこそ。私はバレエを踊るために生まれてきたと思っています。バレエは私の人生なので、仕事ではない。中途半端な気持ちでは、残ることができない世界でもあります」と力を込める。
同時に、欠かせないのが、西野さんを優しく支える夫ニコライさんの存在だ。ニコライさんは育児休暇を取り、西野さんの復帰をバックアップした。「ニコライといると安心できるし、疲れて帰ってきてもハッピーになれる。ニコライだから、夢を話せるし、こういう形で復帰ができた。『白鳥の湖』は、産後の体で、そして母乳をあげながら、踊るのはどれだけ大変か分かっていましたが、ニコライがいてくれるからチャレンジできた」と理解ある夫に感謝している。
また、息子アイリフ君も、西野さんにとって大きな癒やしになっている。「今は2歳になりましたが、アクティブで、すごくハッピーボーイですね。いつも笑っていて、我が家は笑い声が絶えない」と目を細める。「私だけではなく、アイリフの分ももっと頑張らないと思うようにもなりました。彼を支えるために、自分がもっと力強く立たないといけないと、すごく感じています」とパワーの源にもなっている。
◇もう一人子供が欲しい
30代で母となり、バレエに育児に充実した日々を送り、パワフルでキラキラとした輝きを放ち続ける西野さん。自身の信条を「ポジティブに生きること」といい、「そういう考えだと自然に笑顔になるじゃないですか。大阪出身だからなのかな? 母や祖母を見ても、そう思いますね。ポジティブでいると元気になれるし、ハッピーになれる。肌の調子もよくなると思う」と前向きな姿勢がその美しさにも通じているようだ。
今後は「プリンシパルになってから10年。経験も積んできたし、母にもなった。これまで踊ってきたあらゆる作品をまた踊って、母となった今だからこそできる表現をお客様に見ていただきたい」と意欲を見せ、私生活では「(41歳という同バレエ団の)引退の年までに、もう一人、子供が欲しい」と笑顔で語った。
「こういう仕事をしているので、アイリフとの時間が普通のママよりも少ないので、あと1、2年、アイリフだけを可愛がって、それから兄弟を作ってあげたい」と親心をのぞかせ、「今はアイリフをお風呂に入れている時間が大好きですね。お風呂から上がって、ぬれたままでタオルに飛び込んで来てくれるのが一番好きな時間です」と母の優しい顔で語った。
<プロフィル>
にしの・まいこ。大阪府出身。6歳からバレエを始め、15歳の時、名門英国ロイヤルバレエスクールに留学。19歳でノルウェー国立バレエ団に入団し、25歳で同団の東洋人初のプリンシパルに抜てきされる。現在も同バレエ団の永久契約ダンサーとして活動中。私生活ではノルウェー人の夫ニコライさんと長男アイリフ君との3人暮らし。
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