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門脇麦&菅田将暉:映画「二重生活」語る 同世代共演に「最初からピタッときた感じ」

 直木賞作家・小池真理子さんの小説を映画化した「二重生活」(岸善幸監督)が全国で公開中だ。大学院で哲学を学ぶ平凡な学生が、修士論文のため担当教授から一人の対象を追いかけて生活や行動を記録する“哲学的尾行”を勧められ、近所に暮らす既婚男性の尾行を始めたことで男性の秘密を知り、次第に禁断の行為にはまっていく姿を描く。主人公の学生・珠役で初の単独主演を飾った女優の門脇麦さんと、珠と同居している恋人・卓也役を演じた俳優の菅田将暉さんに撮影や映画の魅力、同世代の俳優について話を聞いた。

 ◇門脇との共演に「ちゃんと芝居するのは初めてで楽しみだった」

 今作の原作を読んでいたという門脇さんは「読み物として面白く読ませていただきました。尾行のシーンが多かったので、どういうふうに撮るのかなと思いました」と感じたという。一方、菅田さんは「原作を読んでいないので脚本の感想ですが……」と前置きし、「自分の役の目線で読んでいたかもしれないですけれど、ちょっと現実離れしている感じもある。人間同士のすれ違いであったり、何かにのめり込んで周りが見えなくなったり、それを自分で分かっていながらもちょっとうそをついたりとか、そのへんの感じがすごくリアルで嫌だなと思いました」と脚本から感じた印象を語る。

 出演にあたっては、「門脇さんとちゃんとお芝居するのは初めてだったので、それがすごく楽しみでした。うわさで(岸監督は)テストをせずそのまま(カメラを)回すというのを聞いていて、その部分も楽しみでした」と菅田さんが目を輝かせれば、門脇さんは「岸さんの作品は拝見していて、いつか絶対ご一緒してみたい方でしたので、お話をいただいたときはうれしかったです」と笑顔を見せる。

 それぞれが演じている役について、菅田さんは「久々にニュートラルな役だから、映画を見た知人には、『最後に人を殺したりするのかと思った』などと言われました(笑い)」と切り出し、「今まで僕がやってきた役が悪いのか、そういうようなことを期待されるのはうれしいですけれど、今回はそうではなく、(自身の役と門脇さん演じる珠、長谷川博己さん演じる石坂、リリー・フランキーさん演じる篠原教授という)主要な4人の中では確実に真っすぐに描かれている」と説明。続けて、「ほかにもあるかもしれないけれど、(真っすぐな役柄が)久々だったので、すごく楽しみでした」と話す。

 一方、門脇さんは「わりと(せりふが)『……』のような役が多いというか、せりふの8割がないような感じの役を演じることが多い」と言い、「今回は尾行ということもあって、台本はほぼ『……』だったので、『……』を極められる作品になればと思いました」とちゃめっ気たっぷりに話す。

 ◇岸監督の現場は「メーク時間のほうが長かった(笑い)」

 岸監督はシーンを割らず、なかなかカットをかけず撮影するなど独特な現場だという。実際に体験した菅田さんは「本当に早くて、メーク時間の方が長かったりする(笑い)」と驚く。続けて、「ありのまま体験したことを言いますと、現場に行き、メークや衣装をすませたら、『ここに卓也の机があって』などまるで“内見”のように生活空間の説明があって、『回します。用意スタート!』となり、10分後ぐらいに、『はいオーケー』となる」と具体的な撮影の流れを解説する。

 そんな撮影方法を菅田さんは「カメラの画角とかはまったく分からないですし、そんなところは気にしなくていいと。カメラマンさんと(演じる)僕らにしか分からない“距離”みたいなものがあるのですが、僕はすごく楽しかった」と充実感をにじませる。

 話を聞いていた門脇さんも「すごく居心地がよかった」と言ってうなずき、「(カメラの画角とかを気にしないというのは)常に目指しているところではあるので。私は演技をすることに恥ずかしさがあって、そこから逃れるために何をするかというのが普段の課題。どの現場でもこのやり方が通用するかというとそうではないと思いますが、自分が目指しているものが、この現場にはベースとしてあったのがうれしかった」と感慨深げな様子を見せる。

 そういった特殊な撮り方の効果もあるのか、門脇さんと菅田さん演じる2人が自然に恋人同士に見え、食事やラブシーンなどの日常がリアリティーをもって描かれている。門脇さんが「特に芝居を『ああしよう。こうしよう』という会話をしたり、何かを頑張ったという記憶はなく、無理をすることも違和感もなかった」と話すと、菅田さんも「考えてみれば不思議なこと。テストもなくラブシーンもやっているし」と言って門脇さんと顔を見合わせる。さらに、菅田さんは「普通の感覚で言えばありえないことが起きていたと思いますが、あの空間にいると違和感がなく普通にできてしまう」と言い、「とにかくナチュラルでした」と門脇さんも同意する。

 珠と卓也の2人のシーンについて、門脇さんは「(珠が)尾行に行くとそれによって見えてくるものや、そこで行われていることがシーンの肝になるので、珠のベースは卓也とのシーンで提示しなければというのはあった」と説明し、「2人の空気がマッチするというか、私も菅田くんもバロメーターの中でどのあたりが合うかを無意識に探っていたと思うのですが、最初からピタッときた感じでした。私が菅田くんの空気に乗っかったところもあるし、逆に菅田くんも私の空気に乗っかったこともあるかもしれない」と分析する。

 ◇「気づいたら面白い世代になっていたらいい」と同世代を語る

 現在注目を集めている若手俳優の中でも勢いのある2人。「世代意識はあります」という菅田さんは、「(同世代の俳優たちとは)仲もいいし、それぞれがパイオニアになってアイコンになって、気づいたら面白い世代になっていたらいい。もちろん嫉妬とか小さいことはいっぱいありますが、特に意識しているかというと、どうなんだろう……」と語る。聞いていた門脇さんは「いろんなことが一周しているのを見てきた世代だから、そろそろ新しいことをやろうとみんなが思っているのでは、と感じています。客観的にも同世代には面白い人がいっぱいいると思うし、すごく楽しみ」と期待感を抱く。

 将来的に自分たちと同世代でやってみたいことについて、「いい意味でも悪い意味でもなんでもある世代。メディアもインターネットもあれば映画やドラマ、舞台というずっと存在するものもある」と菅田さんは切り出し、「うちの父親とかもう少し上の世代だと、ラジオから流れる曲を1回聴いただけで耳コピして弾けるような世代。その力を今の時代に使ったらどうなるのだろうという爆発力がある人がいっぱいいる。選択肢がありすぎるからこそ、いろんな人がいるような気がするけど、具体的になんだと言われたらちょっと分からない」と持論を語る。

 門脇さんは「5年後、10年後はまた違う形でいいものになっているとは思いますが、若いときにしか出ないパワーがあると思うので、そのパワーが集結している作品を見てみたい」と言い、「何年後かにこの年齢になった子たちが見て、強烈に何か刺さるような作品が見てみたい」と展望を語る。

 ◇「いろんな見方ができる映画」とアピール

 今作の魅力について、「自分が出ている作品の中で初めて普通に楽しめたというか、一観客として見られた」と菅田さんは明かし、「だいたいマネジャーと一緒に見た後、2人で話すとどういう映画だったかが分かるのですが、今作はずっと話していたくなりました。いろんなエンターテインメントが詰まっていて、想像を超えるような展開や“あるある”もあり、静かでもなければうるさくもない多角的な魅力がある」と解説する。

 うなずきながら聞いていた門脇さんは、「いろんなところに視線が置かれているから、いろんな見方ができる映画」と表現し、「珠に感情移入できる人もいれば、各キャラクターを見る人もいる。尾行している珠をさらに尾行して観察しているような目線でも見られると思うし、哲学や思考的な部分でも新鮮で興味深い」と多様な視点で楽しめる点をアピール。さらに、「卓也とのシーンでの珠の心情など感情的に動かされる部分や、単純に尾行がばれるかばれないかというスリルなど、いろいろなものがある映画で、『なんだこれは!?』という作品になったと思います」と自信をのぞかせる。

 尾行による観察という新感覚の作品に仕上がっているが、お互いを現場で観察して感じたことを聞くと、「菅田くんはよく寝ます(笑い)」と門脇さんが指摘すると、「よくご存じで(笑い)」と菅田さん。さらに、「気づくと寝てたりしていて、本番中も寝てました」と門脇さんが暴露し、「寝たことに気づいてなくて、恥ずかしかった」と菅田さんは苦笑い。続けて、「それくらい心地よかったと……」と菅田さんは笑顔を見せつつ、「門脇さんは体の動かし方というか身のこなしがすごく柔らかくて、キャッチーだけれどもナチュラル。あれこれ考えていくと動線が硬くなってこわばったりと、自分はそうなりがちですが、一緒にお芝居しているとほどけた瞬間が何回かあってすごいなと」と門脇さんのことを絶賛した。映画は全国で公開中。

 <門脇麦さんのプロフィル>

 1992年8月10日生まれ、東京都出身。2011年のデビュー後、東京ガスのテレビCM「ガスの仮面」でのクラシックバレエが話題となり注目を集める。ドラマ「美咲ナンバーワン!!」(日本テレビ系)で女優デビューし、以降、映画「リアル鬼ごっこ3」(12年)、「スクールガール・コンプレックス」(13年)、NHK大河ドラマ「八重の桜」などに出演。14年にはヒロイン役に抜てきされた映画「愛の渦」の大胆な演技が話題を呼んだ。14年には第6回TAMA映画賞最優秀新進女優賞、15年には第36回ヨコハマ映画祭日本映画個人賞最優秀新人賞、第88回キネマ旬報ベストテン新人女優賞などを受賞。主な映画出演作に「アゲイン 28年目の甲子園」(15年)、「合葬」(15年)、「太陽」(16年)、「オオカミ少女と黒王子」などがある。「ピース」の又吉直樹さんの小説を映像化したドラマ「火花」(Netflix配信)に出演。17年には出演した映画「彼らが本気で編むときは、」の公開を控える。

 <菅田将暉さんのプロフィル>

 1993年2月21日生まれ、大阪府出身。2008年に第21回「ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」の最終選考に残ったのをきっかけに芸能界入りし、09年に特撮ドラマ「仮面ライダーW」に史上最年少で主演に抜てきされる。NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」や、「民王」(テレビ朝日系)などに立て続けに出演し、13年に主演映画「共喰い」で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。14年「そこのみにて光輝く」では日本映画批評家大賞助演男優賞など国内の映画賞を数々受賞。最近の主な映画出演作に「闇金ウシジマくんPart2」(14年)、「海月姫」(14年)、「暗殺教室」(15年)、「明烏 あけがらす」(15年)、「ピンクとグレー」(16年)、「星ガ丘ワンダーランド」(16年)、「ディストラクション・ベイビーズ」(16年)など。今後、出演した映画「セトウツミ」「何者」「デスノート2016」「溺れるナイフ」などの公開を控える。

 (インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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