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士郎正宗さんのマンガが原作の人気アニメ「攻殻機動隊」をハリウッドで実写化した「ゴースト・イン・ザ・シェル」(ルパート・サンダース監督)が全国で公開中だ。今作のPRのために、主演のスカーレット・ヨハンソンさんやサンダース監督らが3月に来日。ヨハンソンさん演じる“少佐”の相棒、バトー役のデンマーク人俳優ピルー・アスベックさんに話を聞いた。
◇マンガを読んで役作り
映画「ゴースト・イン・ザ・シェル」は、近未来の電脳化社会を舞台に、他者の脳をハッキングして自在に操るサイバーテロリストを追う少佐ら「公安9課」のメンバーの活躍を描く。少佐は、脳以外は全身義体だが、アスベックさんが演じるバトーもまた、少佐ほどではないが体の一部を義体化している。
「一キャラクターとしては、バトーのことは大好き」と言うアスベックさん。しかし、「演じるとなると話は別」だった。「バトーというキャラクターを作るに当たっては、自分がどれほど彼に共感できるかが“入り口”だった。バトーは、みんなから支持されているキャラクターだ。それに僕は、彼と違って軍人だったこともなければファイターでもない。むしろLOVERだ(笑い)。だから、最初、彼のような戦士を演じることに戸惑いがあった」と打ち明ける。
アプローチの方法に頭を悩ませているとき、アドバイスをくれたのが奥さんだった。「妻が、『じゃあ、ピルー、マンガを読んでみたら? そっちの方が(アニメより)先なんでしょ』と言ったんだ。そこでマンガを読んでみたら、よりリアルで正直なバトーがいた。マンガのバトーには少年っぽいところがあって、読んだ方ならご存じだと思うけれど、電脳通信を介して少佐が女性と愛し合っているところに、たまたまバトーが入り込んで、わっと驚く場面がある。それを見たとき、すごく人間らしいと思ったんだ」と、このとき、バトーというキャラクターの入り口を見つけたという。
◇バトーは少佐の守護者
アスベックさんはバトーを、「元軍人で、接近戦のプロで、巨体で、義眼を入れていて白髪。犬のガブリエルを愛していて友達がいない」と評し、さらに、バトーを主人公にした押井守監督による劇場版アニメ「イノセンス」(2004年)に言及しながら、「彼は世界に落胆させられて、世界と距離を置いている。だから、態度もユーモアもドライなんだ」と分析。その上で、少佐との関係性をこう説明する。
「実は少佐にも、同じようなところがあると思う。だから2人には、何か通じ合うものがあるし、バトーは少佐のことを愛していると僕は思うんだ。だけど、すべての素晴らしいラブストーリーがそうであるように、たぶん、2人の愛は成就しないとバトー自身どこかで分かっている。だから彼は、少佐の守護者、あるいは、“ビッグブラザー”になろうと決めるんだ」と推測する。
◇大切なのは「ケミストリー」
その少佐を演じるのがヨハンソンさんだ。ヨハンソンさんとは14年の「LUCY/ルーシー」で共演したが、当時は数日間しか一緒にいられなかった。それでも、ヨハンソンさんの才能は感じられた。対して今回は、6カ月間ニュージーランドでじっくり撮影することができ、家族同士の付き合いもできた。「スカーレットは最高だよ。あんな努力家はいない。毎朝1時間トレーニングしてからメークして、スケジュールによっては正午から午後3時までの撮影をこなしていた。本当に、今、最高の役者の一人だと思う」と手放しでたたえる。
さらに、「演技では表現できないエモーションってあると僕は思っている。それは、ケミストリー(化学反応、相性)と言い換えることもできるけれど、ケミストリーがよくないときは、見ている方も何かが違うと感じるものだ。スカーレットと僕にとって大切だったのは、少佐とバトーが、そういうケミストリーを持つことだった。スカーレットとは、プライベートで“ファミリー”のようになっていたから、兄妹のような関係を、キャラクターを通して表現できたのではないかと思っているし、それがある意味、僕にとってのこの作品の“入り口”でもあった」と振り返る。
◇「夢のようだった」ビートたけしとの共演
公安9課の責任者、荒巻役はビートたけしさんが演じた。たけしさんとの共演を「夢のようだった」と表現するアスベックさんは、「(北野武監督は作品を)カンヌに出品してらっしゃるし、さまざまなところで受賞もしている。そんなレジェンドとご一緒できたのはすごく幸せなことだし、誇らしいことだった」と感無量の様子。
たけしさんとの共演シーンで印象に残った場面について、「たくさんあるよ」とした上で、荒巻が机の引き出しから銃を取り出す場面を挙げ、「本来なら、バトーはそのあとあの場を立ち去るはずだった。だけど、たけしさんの威圧感が半端じゃなくて、すっかり見入ってしまったんだ。男らしさを見事に表現していたし、決断力やパワーを感じさせる演技だった。たけしさんは、カメラが回っていないときは、『俺、役者としては本当にへたでさ』と言っていたけれど、『何を言っているんだ。あんたみたいなすげえ人はいねえよ』と内心思っていたよ(笑い)」と、「マエストロ」との共演に心底感動していた。
◇義眼での演技に四苦八苦
ところで、アスベックさんは今回、義眼を装着してバトーを演じている。髪の毛を毎日ブリーチして白髪に保つのも大変だったそうだが、装着に3~4時間かかる義眼での演技も相当大変だったようだ。片手を望遠鏡に見立てのぞきながら、「本当にこれしか見えないんだ。(視野が)限定されてしまうから、アクションシーンを撮っていても車に体当たりしたり、距離感を測り切れず相手の顔を思い切りなぐっちゃったり。そんなことがたくさんあって大変だったよ」と苦笑い。
ただ、今作のバトーは最初「肉眼」で登場する。それについて、「肉眼から始まるところがすごく気に入っている」とアスベックさん。「『目は心の窓』という言葉があるけれど、やっぱり俳優というのは、目を通して観客とつながるものだと僕は思う。義眼のバトーから物語が始まると、本の表紙しか見ていないようなもので、内容まではくみ取れないんじゃないかと思うんだ」と肉眼が作品にもたらす効果に期待を寄せていた。映画は7日から全国で公開中。
<プロフィル>
1982年生まれ、デンマーク出身。デンマークの政治ドラマ「コペンハーゲン/首相の決断」(2010~13年)や、「ボルジア家 愛と欲望の教皇一族」(11~13年)の最終シーズンなどに出演。また、米HBOの人気シリーズ「ゲーム・オブ・スローンズ」(11年~)に第6シーズンから出演している。映画出演作に「LUCY/ルーシー」(14年)、「ある戦争」(15年)などがある。
(インタビュー・文・撮影/りんたいこ)