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女優の蒼井優さんと俳優の阿部サダヲさんが共演した映画「彼女がその名を知らない鳥たち」(白石和彌監督)が、28日から新宿バルト9(東京都新宿区)ほかで公開される。蒼井さん演じるヒロイン十和子が、かつての恋人の失踪に、阿部さん演じる同居人の陣治が絡んでいるのではと疑いの目を向けるミステリーだ。どんなにさげすまれようとかいがいしく十和子の世話を焼く陣治と、そんな陣治を「卑屈」「下劣」「不潔」とののしり、嫌悪感を募らせていく十和子。2人のやりとりを見ながら、黒い快感を覚えた。
15歳年上の佐野陣治(阿部さん)と暮らす北原十和子(蒼井さん)は、8年前に自分を捨てた男、黒崎俊一(竹野内豊さん)をいまだ忘れられずにいた。働きもせず陣治の稼ぎに頼る十和子は、腕時計の修理をきっかけに、妻子持ちのデパート店員、水島真(松坂桃李さん)と知り合い、彼との情事に溺れていく。そんな中、十和子は、黒崎が行方不明になっていることを知り、日ごろ、自分の行動に目を光らせている陣治がその失踪に関わっているのではないかと疑い始める……というストーリー。
原作は、先ごろ映画化公開された「ユリゴコロ」(2017年)の著者、沼田まほかるさんの同名小説。「凶悪」(13年)や「日本で一番悪い奴ら」(16年)で知られる白石監督が、倒れる窓や、天井から降ってくる砂など、映画ならではの仕掛けを使いながら人間の深奥を描き出した。
身勝手な十和子、貧相な陣治、薄っぺらな水島、唾棄すべき黒崎。彼らは、誰の心にも宿る煩悩の具体化であり、言ってみれば私たち自身だ。だからこそ真相を知ったときは心をえぐられ、そこに確かに存在した究極の愛に打ちのめされた。
原作を読み度胆を抜かれていただけに、映画を見たときの衝撃は少なかった。しかしその分、俳優たちの表情から真相をうかがう楽しみを得られた。蒼井さん、阿部さん、松坂さん、竹野内さんが皆、見事な最低人間ぶりを見せている。とりわけ、従来のイメージを覆す竹野内さんのげす男ぶりに目を見張った。(りんたいこ/フリーライター)