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女優の趣里さんが主演する映画「生きてるだけで、愛。」(関根光才監督、9日公開)は、うつのせいで引きこもり状態のヒロインが、ある出来事をきっかけに生活を立て直そうとする姿を描いていく。趣里さんは、演じたヒロインのことが「他人事とは思えない」と語る。どんな気持ちで役に臨んだのか。また、趣里さんの女優業に対する思いや10年後の自分について聞いた。
◇想像することで役作り
映画は、うつが招く過眠症のせいで引きこもり状態の寧子(やすこ)が、同棲(どうせい)中の男・津奈木の元カノの出現によって、それまでの生活を変えざるを得なくなるというストーリー。原作は、作家の本谷有希子さんが、2006年に発表した同名小説。津奈木を俳優の菅田将暉さんが演じるほか、津奈木の元カノの安堂を、仲里依紗さんが演じている。
趣里さんは、撮影に入るまでの約半年間で、「たくさん寧子のことを考えて、想像する」ことで役作りをしていった。その過程で、寧子という女性は、「(精神的に)もろくはあるけれど、毎日をちゃんと進んでいく強さはある子」で、「自分のことをどうしようもない(人間)と分かっているけれど、それを変えられない葛藤の中にいる」と感じたという。
◇寧子のエネルギーは「うらやましくもあった」
そんな寧子は趣里さんにとって、「自分にも重なる部分がある」キャラクターであり、だからこそ、寧子のことが、「他人事とは思えなかった」と話す。そして、寧子のような状態は、「誰もがなりうること」であり、「普遍的な話のようにも感じました」と共感を示す。
その一方で、寧子は、自分の感情で処理し切れないほどの出来事が起きると、衝動的な行為に走る。それは例えば、自動販売機に頭突きをくらわせたり、目覚まし時計で自分の頭を殴ったり。そういった感情表現の方法は、趣里さんとは「全然違う」というが、寧子の、自分が思ったことを口に出して言う正直さや行動のエネルギーは、「ある意味うらやましくもありました」と語る。
◇「ひもとかれていく感じがすごく楽しい」
これまで、NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(2016年)での出版社社員や、ドラマ「リバース」(17年)での議員秘書の妻、今年4月期に放送された「ブラックペアン」での看護師など、さまざまな役を演じてきた。役へのアプローチはその都度、「あまり変えない」そうで、「一番は想像すること」だという。
「例えば、自分がこの状況で病院にいたらと想像すると、だんだん、なぜこの役がこういう行動をとるのかとか、その裏に抱えているものが分かってくるんです」といい、「そういうふうに考えたり、想像したりすることで、一つ一つがひもとかれていく感じがすごく楽しいです」と演じることの醍醐味(だいごみ)を語る。
◇「人のためになりたい」
女優業に対して、「やっぱり仕事だから、人のためになりたいという思いがすごくあります」と力を込める。だからこそ、「作品を見て、『芸術に触れたな』とか、『なんか嫌だな、この子』でも、なんでもいいんです。最終的には、『見てよかったな』と思ってもらえるものを目指しています」と真摯(しんし)に語る。
今回の作品に出演し、収穫は「あります」と胸を張る。それは、趣里さんが芝居を始めたきっかけと重なる。趣里さんは、幼少期からバレリーナを目指していた。しかしけがでその夢は絶たれた。そのとき見た演劇に、「こういう世界があるんだ、と救われた」という。そこから、映画やドラマ、演劇には「人に寄り添ったり、弱っている人を元気づけたりする力が絶対にある」と思うようになった。
これまでも演じる時は、その力を信じてやってきたというが、今回は特に、「それができるかもしれないと思いながらやっていたんですね。(映画を)見て、寧子を救って、自分も救って、たとえ反面教師でもいいんです、そうなってもらえたらいいな、と強く思うことができました」と振り返る。と同時に「いろんなプロフェショナルな方が集まって、一つのものを作り、それを世に出すことの素晴らしさ」をより強く実感できたという。
◇ストレス解消法は?
そんな趣里さんに、日々、美容や健康で気をつけていることを聞くと、「それがですね」と申し訳なさそうに、「私、本当に雑なんですよ(笑い)」と意外な告白が飛び出した。「性格的には面倒くさがり」だそうで、「お風呂もできれば10分で終わらせたいタイプで、メーク落としで顔を洗って、化粧水で終わり、みたいな……」と明かす。
ただ、美容や健康には、「ストレスが一番よくないと聞いた」ため、休みができたら、大好きな京都を一人で訪れたり、ちょっと空を眺めたりするなど、「非日常を感じられるようなもの」に触れ、心を休めるようにしているという。そうすることが、「よし、頑張ろうと気持ちを切り替えられる秘訣(ひけつ)なのかなと最近気づきました」と笑顔を見せる。
◇10年後の自分は?
この9月で28歳になった。10年後の自分を想像してもらうと、「物心がついた時から、将来の夢がずっとバレリーナだったんですけど、でもそれが簡単に消えちゃって……。ですから、将来を描くことがなかなか難しいんですね」と正直に打ち明ける。その上で、「お芝居をやるなんて思ってみなかったんですけど、ただそれって、サプライズもすごくたくさんあって、知らなかった自分の一面を知ることができたりして、すごく面白いなと最近になってやっと思うことができたので、将来、10年後……どうなっているんですかね」と笑う。
「(10年後は)全然想像がつかないけど……」と考え込み始めたので、「結婚は?」と尋ねると、「全然ないんですよ。今のところはないんです(笑い)」、結婚願望も「ないです、ないです(笑い)。そういう人生もあるのか……ぐらいの感じで」とさばさばと答える。
その上で、「でも、人生について考え込んじゃっていた時期もあるので、そう考えると、年々ちょっとずつ楽になってきていますから、10年後ももう少し、肩の荷が下りたりしているのかな、もうちょっと解放されているのかなとか、そういう期待はあります」と将来に思いをはせていた。
(取材・文・撮影/りんたいこ)