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公開中の映画「宮本から君へ」(真利子哲也監督)で、主人公の熱血営業マン、宮本浩を演じている俳優の池松壮亮さん。宮本は今回、ワケあって“絶対に勝たなきゃいけないケンカ”に挑む。そのため映画では、宮本のトレーニング風景や、倒立腕立てを見ることができ、“決闘シーン”も池松さんがノースタントでこなしている。そんな池松さんが、普段、どんな生活を送っているのか。また、宮本を演じるために歯を抜くことまで考えた池松さんにとって、俳優業とはどんな意味を持つのか。さらに、共演した蒼井優さんについて、蒼井さんが演じたヒロイン中野靖子という女性についても聞いた。
◇健康法は意外にも…
池松さんに、健康のために日々、心掛けていることを聞くと、「まったくないです。男の一人暮らしなんで、生活はひどいもんですよ」と苦笑交じりに明かす。料理もしないといい、最近では、スマホで料理を注文できる宅配サービスに「頼りっぱなし」だという。
それでも、「唯一健康法といえるのだとしたら」と挙げたのは「映画」という意外な答えが返ってきた。だが「作品(の撮影)に入れば、目の前の生きがいを見つけやすいというか、普段よりも心が健康になるし、そうなるとやっぱり体も健康になります」という説明に合点がいく。そして、「心が健康というと、字面にするとすごくライトになる気がするんですけど、生きている価値や高揚感を含め、普段感じることのできないものを味わうときは、“満たされる”ではないですけど、普段、無感情で宅配サービスを利用している男からすると(笑い)、生きている感覚にはなります」と話す。
普段の生活も「超不規則です」と正直に明かす。ただ、宮本を演じるに当たっては、「せりふを叫んでいたら、排気量が足りなくなるんです。僕はタバコもすいますし、お酒も飲みますので、それを止めるということではなく、1カ月くらい毎日40分ほど走っていた」という。ちなみに、倒立腕立てができるだけの筋力がある。学生時代は野球に勤しんだ。「何もやっていなかったら大変だったと思います。衰える一方ですけど(苦笑)」と、昔取った杵柄(きねづか)が役立っているようだ。
◇蒼井優は「人間お化け」?
今作では、ヒロイン、中野靖子の存在も大きい。演じた蒼井さんとは、2002年に初めて池松さんが出演したドラマや、映画「鉄人28号」(2004年)はじめ、これまでたびたび「同じ作品に収まってきた」。お互い福岡県出身で、昨年は映画「斬、」(2018年)で、「すごく濃い時間を過ごした」こともあり、池松さんにしてみれば五つ年上の蒼井さんは、「親戚のおねえちゃんみたいな感じ(笑い)」で、「言葉を交わさなくても共通意識を共有できる人」だという。
池松さんによると、芝居とは「(俳優)みんなが、音楽でいう楽譜は一応持っていますが、やってみないと何が奏でられるか分からない」もの。そんな中で、蒼井さんの芝居から出てくる「懐の深さと、軽やかさと、自由さ」には圧倒されたようで、蒼井さんを形容しながら、「人間お化け(笑い)」という言葉すら飛び出した。この「人間お化け」発言は、「自分で言っていてよく分からない。言わなきゃよかった(笑い)」とすぐに引っ込めたが、「俳優としてすごいということは、人としてすごいということなんです。お芝居って何かを選択していくような感覚があるんですが、その選択の仕方はすごいとしか言いようがないんです。やっぱり格が違うと思いましたし、助けられることばかりでした」と賛辞を惜しまない。
そんな蒼井さんが演じた靖子という女性について池松さんは、「僕プラス宮本のフィルターが入っていますが」と断った上で、靖子が台所で料理を始める場面に触れ、「とりあえず台所で考えてみようと髪を結んでかぼちゃ(に包丁)を刺す感じとか嫌いじゃないです(笑い)。カッコいいとか、すごいとか、そういう形容しかできないんですけど、たいした人だと思います」とたたえた。
◇演技は「自分が出合った一番夢中になれるもの」
今回の撮影では歯を抜くことも考えたという池松さん。それは、原作者の新井英樹さんと蒼井さんに「必死に止められた」ことで実行しなかったが、そうまで考えさせる俳優業とは、池松さんにとってどんな存在なのか。
その問いに、しばらく考えてから「俳優業は、俳優業以上でもなければ以下でもないんです」と答えた池松さん。「生きる活力では?」と水を向けると、「言ってしまえばそうだと思います」とした上で、「俳優業というよりも、やっぱり、映画に対しての思いが強いというか。世の中が思う仕事というものと、ちょっと外れているような気もするし」と続ける。
そして、「どう言ったら伝わるのかいまだに分からないんですけど、親なのか神様なのか分からないですけど、とにかくもらった人生という、ものすごく長い時間、何もしないと暇じゃないですか。そんな中で、自分が出合った一番夢中になれるもの。そういう感覚はあります。お金どうこうということもあまり考えないですし。ですから、人生の格好の暇つぶしを見つけたといいますか。それを生きがいというのかもしれないですし、とにかく、俳優業、映画というのは、いつの間にか自分の人生と切り離せないものになりましたね」と静かに語った。
◇10年後は…
演じることの醍醐味(だいごみ)を「自分とは違う人間の人生を生きられること」と答える俳優は多い。しかし、小さいころから演じてきた池松さんは、役と自分の人生の違いを「考えたことがなかった」という。むしろ、「ものづくりにものすごく引かれた部分は大きいと思います」と話す。「それが、(物理的な)形があるものでもなく、ゴールが明確にあるわけでもなく、目に見えない感情が渦巻く映画というもの。そして、心を打って、心に訴えるみたいなこと。しかも集団制作でそういうことをやるということに引かれたのだと思います」とつないだ言葉に、映画に対する深い愛情がのぞく。
そんな池松さんが考える10年後は……。今年4月のインタビューでは「結婚して子供が欲しい」と言っていた。「それは変わっていないです」としながら、「何をもって向上というのか分からないですけれど、俳優としてレベルアップしていたいし、人としてレベルアップしていたいとは思います。そして、きっとそうはならないでしょうけど、自分の満足できる作品を、10年後、ちゃんと世に送り出していたいとは思います」と真摯(しんし)に語った。
映画は、マンガ家・新井英樹さんが1990年代前半に発表し、多くの若者を魅了した同名マンガが原作。2018年4月期に放送されたドラマ版は、文具メーカー「マルキタ」に入社した池松さん演じる宮本浩が、営業マンとして奮闘する姿を描いた。今作では、宮本と、蒼井優さん演じる中野靖子の愛の試練を軸に物語が展開していく。
<プロフィル>
いけまつ・そうすけ 1990年7月9日生まれ、福岡県出身。「ラストサムライ」(2003年)で映画デビュー。最近の映画出演作に、「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」(2017年)、「万引き家族」「君が君で君だ」「散り椿」「斬、」(いずれも2018年)、「町田くんの世界」「よこがお」(共に2019年)がある。
(取材・文・撮影/りんたいこ)