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第一線で活躍する著名人の「30歳のころ」から、生きるヒントを探します。初回は女優の吉田羊さん。当時の思い出や、30歳をより輝かせるためのアドバイス、10月に上演される主演舞台「ジュリアス・シーザー」などについて聞きました。(全3回、編集・取材・文/NAOMI YUMIYAMA)
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「冒険することが好きなんです。停滞することが好きじゃない。ただ冒険をするには自分の“好き”という気持ちに正直に動くことが大切ですね」
そう言って微笑む吉田羊さん。
そんな彼女の新たな冒険が、10月に上演される新作舞台「ジュリアス・シーザー」であることは間違いない。
古代ローマの政治闘争を描いたシェイクスピアの戯曲をオール女性キャストで挑む舞台で、吉田さんは座長を務める。
「実はシェイクスピアはずっと苦手で、ずっと演じるのを逃げてきたんです(笑い)。でも来年、芸能25周年を迎えるこのタイミングに、このお話をいただき、これは演劇の神様からの「原点に返れ」というお告げだと思って挑戦することにしました。演じるブルータスについて知っていたのは『ブルータス、おまえもか。』という有名なセリフだけ。今回、改めて勉強しました」
ドラマや映画で活躍する一方で、三谷幸喜さん演出の舞台「エノケソ一代記」では読売演劇大賞優秀女優賞も受賞した吉田さん。これまで男たちが演じた戯曲を、女性だけで演じる試みを、初めて聞いたときの感想とは。
「有名な物語だけに、観客のみなさんにも固定観念がありますし、それを女性だけで演じるというのはどうなんだろう?と、最初は思いました。稽古(けいこ)をしたときも、原作のまま『おれ』という一人称でしゃべることに違和感を感じましたね。ただ、演出家の森(新太郎)さんが、原作の中で男女の役割を固定するような表現をほぼカットされたんです。そのため性別の概念が取り払われて。人間の物語として響く作品になったと思います」
舞台で吉田さんが演じるブルータスは、人望の厚い高潔な軍人。英雄として凱旋(がいせん)したジュリアス・シーザーが「皇帝」の座を狙っているのではと危惧したキャシアスに誘われて、彼と共にシーザーを暗殺する。だが、やがてローマ市民は、そんなブルータスに敵意を抱き始める。
「私が思うブルータスは“ミスター正義感”。誰もが口をそろえて「誠実」と評する一見、完璧な人物ですが、彼の魅力は強さと共にある弱さにあるのではと感じています。シーザーを暗殺するときも、友人のキャシアスにそそのかされて、さんざん逡巡(しゅんじゅん)したあげく、ことを起こしますよね。見ている方は、『早く決心しろよ、ブルータス!』と応援したくなるはずです。それに、彼はその優しさゆえに、ここぞというところでツメが甘いんですよ(笑い)。その不完全さが、また人間臭くていい。
ただ、シェイクスピアのこの作品がずっと愛されているのは、そんな人間臭い彼の心の動きを丁寧に描いているからなんですよね。私も舞台で“人間ブルータス”を表現できたらいいなと考えています。
政治劇だと思って見に来たら、実は面白い人間ドラマだったーーそんなふうに楽しんでいただけたら成功ですね」
昔の物語だが、今の日本社会ともリンクしていると吉田さんは続ける。
「ローマが舞台の政治劇ですが、登場人物たちが事を成すまでに抱えている葛藤は、現在に生きる私たちの生活と地続きにあると感じました。
たとえば、この物語のテーマの一つに“裁き”があります。当時の人々が正義を大義名分に掲げ裁きを正当化したように、現代も今もインターネットの普及で大衆が公然と、それぞれの正義を盾に人を人を裁く時代。つまり、2000年以上前から人は変わっていないのです。ただ、劇中の彼らは裁いた後に、後悔したり自問自答したりして、相手を理解しようとするんです。現代人もそんなふうに逡巡を重ね、何なら裁く前に対話を多用すれば、もっと人が幸せになる社会になるのではと思いをはせます。
推しのキャストでも、全員女性であることでも、森さん演出でも、きっかけはなんでもいいのです。いろんな面白さを感じられる熱気あふれる作品ですのでぜひ見に来てください」
<プロフィル>
よしだ・よう 福岡県生まれ。小劇場を中心に、舞台で約10年間活動した後、映像作品にも仕事の場を広げる。2014年の連続ドラマ「HERO」(フジテレビ系)で注目され、現在は、映画やドラマ、CMと幅広く活躍。主演作として映画「ハナレイ・ベイ」(2018年)、近年の出演作に映画「記憶にございません!」(2019年)、連続ドラマ「恋する母たち」(TBS系)、「生きるとか死ぬとか父親とか」(テレビ東京系)など。第24回読売演劇大賞優秀女優賞を受賞。
*……舞台 パルコ・プロデュース2021「ジュリアス・シーザー」▽演出:森新太郎▽出演:吉田羊、松井玲奈、松本紀保、シルビア・グラブほか▽上演:PARCO劇場(東京都渋谷区)で10月10~31日、ほか地方公演あり▽公式サイト:http://stage.parco.jp