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ミステリーの女王、アガサ・クリスティの小説「ナイルに死す」(早川書房)を映画化した「ナイル殺人事件」(ケネス・ブラナー監督)が、2月25日に全国で公開される。本作でヘアメークを担当したのは吉原若菜さん。これまで、ブラナーさんが監督を務めた「シンデレラ」(2015年)や「オリエント急行殺人事件」(2017年)、さらに3月に公開される「ベルファスト」(2021年)でもヘアメークを担当した。今回は、その吉原さんのコメントを紹介しつつ、登場人物のヘアスタイルやメークから作品を見ていく。(文/りんたいこ)
◇実在の人物を参考に
莫大(ばくだい)な財産を持つ米国人女性リネットの新婚旅行中、ナイル川を行く豪華客船で起きた連続殺人事件に名探偵エルキュール・ポアロが挑むというミステリー作品。リネット役で「ワンダー・ウーマン」(2017年)で知られるガル・ガドットさんが出演するほか、ブラナー監督が「オリエント急行殺人事件」に続きポアロを演じている。
吉原さんが今回の仕事の依頼を受けたのは、撮影開始の6~8カ月前。まずは台本を読み、登場人物がどのような生い立ちや性格かを探るところから始めた。リネットは、幼い頃に親を亡くし莫大な遺産を相続していることから、米国の大手スーパーマーケット・チェーン「ウールワース」の創業者の孫で、やはり若くして親を亡くしたバーバラ・ハットンさん(1912~79年)のファッションや髪形を参考にした。
また、リネットの結婚相手の元恋人ジャクリーン(エマ・マッキーさん)は、カメラで写真を撮る趣味があることから、モデルとしても活躍した米国の写真家リー・ミラーさん(1907~77年)を参考にした。吉原さんによるとミラーさんは、「ボーイッシュな感じの髪形で、あまりメークをしない。それでも美しい方」だったそうだ。
◇時代を先読み
興味深いのは、吉原さんが時代の先を読んでいることだ。この「ナイル殺人事件」の舞台は1930年代半ばだが、リネットは、「ファッショナブルで、最新のトレンドにもすごく敏感なキャラクター」で、今でいう「ハリウッドスターのような存在」だ。そのためヘアスタイルは、「1930年代のものよりは、どちらかというと1940年代に近いと思い、ほかのキャラクターに比べると髪の毛は少し長いです。1940年代になると(一般的に)髪の毛の長さがやっぱり長くなるのです」と指摘する。
対して、リネットの後見人であるスカイラー(ジェニファー・ソーンダースさん)や、スカイラーの看護師バワーズ(ドーン・フレンチさん)など年配の女性は、1920年代に流行したボブスタイルの「オールドファッション」風にした。
そのどちらにも属さないのがジャクリーンだ。彼女は活発で情熱的で、我が道を行くタイプ。そこで、「はやりについていかない、タイムレスな髪形」にした。
また、ここに登場する人々はナイル川でホリデーを過ごしていることから、普段より「少し軽くて、健康的で艶やかなメーク」を意識。その一方で、歌手のサロメ(ソフィー・オコネドーさん)や、彼女のマネジャーのロザリー(レティーシャ・ライトさん)は、「1930年代のものを参考にするよりは、メットガラ(ニューヨークのメトロポリタン美術館で開催されるファッションの祭典)でのリアーナさんやビヨンセさんといった今のディーバ(歌姫)と言われている人たちのメークを取り入れつつ、それに少し鮮やかな色や光沢を乗せていった」そうだ。
◇進化したポアロのヒゲ
ポアロといえば、あのヒゲだが、実は前作より小さくなっている。「大きいとケネスさんが大変なんです」とは吉原さん。まず、色や形、ヘアのボリュームが違うものを12個ほど用意し、そこからブラナー監督と話し合いを重ね選んでいった。そして、色とヒゲの幅が決まったところでスタイリングをいろいろ試し、「ハの字にすると顔が少し寂しい感じになってしまう。かといって、全体的に上げたらコミックっぽくなってしまう。ですから少しずつ上げていき、結果的にあのダブルレイヤー(二層構造)になりました」と明かす。
吉原さんは完成したヒゲを、「奥行きがあって、スタイルもすてきで、あれは、血と汗と涙の結晶なんです(笑い)」と胸を張る。物語や俳優の演技を純粋に楽しむのはもちろん“あり”だが、今回はぜひ登場人物のヘアメークにも注目してほしい。