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女優の水川あさみさんが、プライム・ビデオで10月21日から世界同時配信されるオムニバスドラマ「モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~」に出演する。七つのエピソードのうちの一つ「息子の授乳、そしていくつかの不満」で主人公のキャリアウーマンを演じた水川さんに、日々の生活で大切にしていること、40代を目前に思う女優としての将来像、そして作品のテーマでもある「自分にとって愛とは何なのか?」について聞いた。(取材・文/服部広子)
◇一生懸命がゆえ、周りが見えなくなる主人公
「私が演じた主人公の真莉は、一言で言えば、完璧主義者。仕事面でも華々しいキャリアを持ち、強い責任感を持っている女性です。よく言えば、一生懸命なんですけど、少し周りが見えなくなっているところがあって、母親やパートナーの愛に気づけていないんです。
でも、それって誰にでも当てはまることだと思うんです。人は一生懸命になっていると何かを犠牲にしてしまうことがあります。演じるうえでは、真莉なりの一生懸命さが見る人に伝わることを意識しました」
仕事と子育ての両立に奮闘する真莉は、子育ての仕方をめぐって実の母親と意見が対立することもあるが、そんな真莉が自分と重なるという。
「母親との関係性は私と私の母とはまったく違うものです。でも、子供のことだからこそ自分の意見を貫きたいという思いが強いのもわかるし、相手が自分の親だからこそ素直に聞けないところもとても共感しました」
◇搾乳を切り口に子育てを描いた新しい作品
脚本・監督を務めたのは、平栁敦子さん。アメリカで映画製作を学び、カンヌ国際映画祭などで高い評価を得てきた若手の精鋭だ。「子育てにおける目線が独特で面白い」と水川さん。
「真莉は、母乳での授乳こそが息子への大切な愛情表現の一つだと信じ、仕事中も搾乳機を手放せない。搾乳することで安心したり、逆に搾乳がうまくいかないと不安になったり。搾乳という切り口で子育てを描いているところが、とても新しい観点だと思いました。
それに、余計なセリフがないことも新鮮に映って。余白がしっかりあることで、そのときに真莉がどう感じたのかなど、その空気感みたいなものが表れていると思います」
真莉は、前田敦子さんが演じるパートナーの彩と一緒に暮らしている。
「真莉と彩の関係も、これが真莉にとっての日常であり、“当たり前”だという描き方がとてもすてきだと思いました。そこに確かな形があれば説得力があるんですよ。すべてを説明すればいいということでもないし、そこを想像してもらうという楽しみ方もあると思います」
◇もっと深くて大きな愛を知りたいし、与えたい
2019年に米国で製作された「モダンラブ」は今回、東京に舞台を移し、日本屈指の映画監督たちによって七つの作品が誕生した。
「ニューヨーク版の『モダンラブ』が、とても好きだったんです。一貫して愛がテーマになっていますが、日常に寄り添うような愛もあれば、現実離れしたファンタジーのような愛もあって。愛という共通の題材で、こんなにさまざまな愛の形が描けるという面白さが『モダンラブ』の魅力だと思います。東京版は、全くカラーの違う監督たちがそれぞれどんな作品を誕生させたのか、見るのがとても楽しみです」
そんな水川さんにとって愛とは何か。「言葉にするのが難しい」と言いながらこう続けた。
「愛は絶対、失(な)くしてはいけないものですし、手放してはいけないものです。でも、たまに見失うときもあるかもしれないから、それに気づかせてくれるような人たちが自分の周りにいてくれたらいいなと思います。
そもそも、今の自分は愛というものがわかっているのか、それさえも正直わからない。愛を語るには、私なんかまだまだ未熟で、もっと成長しなくちゃいけないと思います。
愛は形があるようで、ないもの。形があったとしても、常に形を変えていくもので、私自身、年齢を重ねるにつれてどんどん変わっていくと思います。もっと深くて大きな愛を知りたいですし、自分がそんな愛を与えられる存在になっていけたらいいなと思いますね」
◇未知の40代を楽しみたい とらえ方で間口が広がる女優に
7月に39歳の誕生日を迎えた水川さん。日々の暮らしで大切にしていることはと聞くと……。
「ちゃんと日常を送るということです。家のことをするとか、ごはんを作って食べるとか。当たり前のことを当たり前にできる時間を持つ。それは今の生活のなかで一番大事にしていることで、結婚してより強く意識するようになりました。お互いが心地よくいられるためにも、日常を大切することを心がけていきたいと思っています」
また、その意識は仕事にも色濃く反映されている。
「20代よりも30代のほうが、自分のやりたいことが明確になったという自覚があって。日常生活の変化を受け入れたり、普通に生活することの大切さを感じたり、という意識が仕事に生かされていることがより実感できた。それが30代ですね」
40代の理想像を聞くと「特に思い描かないです」と明言。
「自分がこうなりたいと思う姿になるために、コレをやらなきゃ!と思った瞬間、それ以上がなくなるような気がしちゃうんですよ(笑い)。だから、40代というまだ足を踏み入れていない未知の領域を楽しむ。今は、それくらいのことしか言えないかな」
一方で、役者の仕事には「自分のとらえ方で、間口を広げていきたい」と抱負を語った。
「まだやったことのない役をやりたいとか、チャレンジできるような作品をやりたい。そういう“欲”みたいなものは根本的にあります。とはいえ、この仕事ははからずも似通った役がくることもあります。
たとえ似たような役でも、以前演じたときとは違う年齢の私が演じることによって、また、その役の見え方が変わってくると思います。そういう楽しみ方ができたらいいですね」
*……「モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~」/2019年に米国で製作され話題を呼んだアマゾン・オリジナルドラマ「モダンラブ」の舞台を、東京に移し、新たな物語をオムニバス形式で描いた。忘れかけていた大人の恋心、息子や母親への愛、国境を越えて芽生える愛など7編。榮倉奈々さん、水川あさみさん、伊藤蘭さん、成田凌さん、永作博美さん、ナオミ・スコットさん、黒木華さんらが主演。監督を平栁敦子さん、廣木隆一さん、山下敦弘さん、荻上直子さん、黒沢清さん、山田尚子さんが担当した。