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自費出版され、そののちSNSや口コミなどで話題となったマンガが原作の人情喜劇映画「ペコロスの母に会いに行く」が16日に公開された。原作者の岡野雄一さんと同じ長崎出身の森崎東監督が、やはり長崎出身の俳優・岩松了さんを息子役に、母親役には赤木春恵を迎えて、認知症の母親と介護する息子のエピソードを温かくユーモラスに作り上げた。
岡野ゆういち(岩松さん)は、マンガを描いたり音楽活動が趣味の団塊世代のダメサラリーマン。母親みつえ(赤木さん)と息子(大和田健介さん)の3人で長崎で暮らしている。悪徳業者にだまされてもよく分からない母みつえ。夫のさとる(加瀬亮さん)が亡くなったあとから始まった認知症が、どんどん進んできている。フラフラと買い物に出かけて孫に連れ戻されたり、駐車場で何時間もゆういちの帰りを待ち続けたりするようになる。ケアマネージャーに進められて、ゆういちは介護施設にみつえを入所させることにする。亡き夫と妹のことを身近に思い出してうれしそうにするみつえの姿に、母の今を受け入れ始めるゆういち。母を喜ばせようと、長崎ランタンフェスティバルに連れて行くことにするが……という展開。
介護体験をマンガにした原作だからこその、リアルなせりふやエピソードが満載で、多くの人の共感を呼びそうだ。息子のことを思い出せない母が、小タマネギのペコロスに似たハゲ頭を触って息子を確認する仕草が、面白くももの悲しくもあるが、老いた母といい年の息子のホンワカとした温かさが感じ取れるいい場面だ。介護に笑いをたくさんちりばめて、みつえの過去は重みをもって描き、現在と過去を行ったり来たりしながら、一人の女性の人生を浮かび上がらせている。10人兄弟の長女として畑仕事をしながら育ち、幼なじみとの楽しい思い出もあった。長崎に原爆が投下され、戦後は、夫さとるの酒乱に悩まされた結婚生活。波乱の昭和を生き抜いてきた母みつえの人生に思いをはせる。本物の会場を貸し切って撮影されたというお祭りのシーンが美しい。長崎に行ってみたくなった。エンディングの一青窈さんの歌には涙腺を崩壊させられた。長崎で先行公開後、16日からユーロスペース(東京都渋谷区)ほか全国で公開中。(キョーコ/毎日新聞デジタル)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、闘病をきっかけに、単館映画館通いの20代を思い出して、映画を見まくろうと決心。映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。