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1986年にフランスで出版され、40カ国以上の国で翻訳され日本でもベストセラーになったハンガリー出身の亡命作家アゴタ・クリストフによる同名小説を初めて実写映画化した「悪童日記」(ヤーノシュ・サース監督)が、3日から全国で公開される。主人公の双子を演じるのはアンドラーシュさんとラースローさんの双子のジェーマント兄弟で、ハンガリーのすべての学校を回り、半年間かけて見つけ出されたという逸材だ。
クリストフが母国語のハンガリー語ではなく、亡命先で仏語で書いた同名小説が原作。第2次世界大戦末期「大きな町」から「小さな町」に疎開してきた双子の兄弟は人々から“魔女”と呼ばれる粗野でケチな祖母と暮らすことになる。双子の“僕ら”は目に映った事実だけをノートに克明に記しながら、過酷な現実を生き抜くために肉体と精神を鍛えていく……という展開。
劇中でも美少年と称される双子の“僕ら”は、肉体的な痛みに慣れるために互いに殴り合い、空腹に慣れるために断食をし、精神を鍛えるために大好きだった母からの手紙や写真を焼くという“訓練”を繰り返す。感情を封印し、「死」さえも慣れようとする双子はどんどん人間らしさを失っていくように見える。と同時に、双子の目を通して見えてくる大人の身勝手さやずるさなど“人間のいやらしさ”がじわじわと浮き彫りになる。ナチスドイツの軍隊によって強制連行されるユダヤ人を指して、「やつらは獣なのよ」と言い放つ女性や自分より弱い者をいたぶる大人たち……。約70年前の戦時下の異国の話ではあるが、この作品で描かれている異質なものを排除しようとするような人間の“暗部”は現代の世にも通じているように感じた。戦争が終わっても双子が歩く道は険しそうだが、クリストフが残した「どこにいたとしても、どの言葉を使ったとしても、書くことをやめなかった」という言葉が双子の姿と重なり、力が湧いてくる。TOHOシネマズシャンテ(東京都千代田区)ほかで3日から公開。(堀池沙知子/毎日新聞デジタル)