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直木賞を受賞した葉室麟(はむろ・りん)さんの時代小説が原作の映画「蜩ノ記(ひぐらしのき)」(小泉堯史監督)が4日から公開される。不義密通の罪で切腹を命じられた武士とその監視を任された青年武士の交流が、美しい日本の四季とともに描かれ、今作が初共演となる俳優の役所広司さんと人気グループ「V6」の岡田准一さんが絶妙な距離感で師弟関係を演じ、人の気高さとは何かを問いかける。
映画は、城内で刃傷騒ぎを起こした檀野庄三郎(岡田さん)が、疎村に幽閉される戸田秋谷(役所さん)の監視を命じられることから幕があける。7年前に藩主の側室と不義密通の罪を犯した秋谷は、切腹までの10年間で藩主・三浦家の歴史をつづった「家譜」を完成させるよう命じられていたのだ。逃走を図るのではという藩の予想に反し、秋谷は家譜の完成と「蜩ノ記」と名づけられた日記を書くことを生きる目的とし、妻の織江(原田美枝子さん)、息子の郁太郎(吉田晴登さん)、娘の薫(掘北真希さん)と穏やかな日々を過ごしていた。庄三郎は秋谷と寝食を共にするうち、秋谷の誠実な人柄に感銘を受け、7年前の事件について調べ始める。そして藩を揺るがす重大な事実にたどり着く……というストーリー。
愛する者を残しながら一人死にゆく悲しみを、役所さんが静かな怒りとほほ笑みで表現し、感情を抑えた演技がかえってその“痛み”を引き立たせる。時代劇にはめずらしく際立ったヒールが登場しないところが今作の持ち味で、大げさな展開や殺陣シーンはないものの登場人物の感情の揺らぎが丁寧に表現され、心にしみ入る。父の過酷な運命を受け入れられずにいた息子の郁太郎が、庄三郎と過ごす日々の中で、強さとは何かを知り、庄三郎の力を借りながら武士として、また一人の男として成長していく姿も見どころ。喪失の痛みを乗り越え自立した青年へと変化していく息子に、秋谷は何を語るのか。
黒澤明監督の助監督を長年務めた経験を持つ小泉監督は、心優しい武士を描いた時代劇「雨あがる」(2002年)がベネチア国際映画祭の緑の獅子賞を受賞するなど、繊細な人物描写で知られる。今作では黒澤組ゆかりのスタッフを再集結させ、一人の武士の最期を通して師弟愛、家族愛を切なくも美しく描いた。脇を固める青木崇高さんや寺島しのぶさんらの名演も必見。「蜩ノ記」は4日から全国で公開。(伊藤野々子/毎日新聞デジタル)