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今年のモントリオール世界映画祭で、審査員特別賞グランプリとエキュメニカル審査員賞をダブル受賞した「ふしぎな岬の物語」(成島出監督)が11日から公開される。吉永小百合さんが初めて企画・プロデューサーとして名を連ね、主演も務めた。森沢明夫さんの小説「虹の岬の喫茶店」を原作に、「八日目の蝉」(2011年)の成島監督がメガホンをとった。岬の喫茶店の女主人と客とのふれあいを通して、人と人のつながりを描いた人情ドラマだ。
太陽と海に抱かれた岬の先端に、女主人・柏木悦子(吉永さん)が一人で営む「岬カフェ」がある。カフェの裏ではおいの浩司(阿部寛さん)が「なんでも屋」を営んでいる。悦子は客の顔を見てから豆をひき、ネルドリップでコーヒーを丁寧に入れる。30年の付き合いである常連客のタニさん(笑福亭鶴瓶さん)は、悦子に思いを寄せている。悦子は、純粋だが、たびたび感情的になるおいの浩司を優しく見守るが、浩司は何かと問題を起こしてしまう。漁を営む徳さん(笹野高史さん)と数年ぶりに帰郷した娘のみどり(竹内結子さん)にも、そっと寄り添って話を聞いた。たびたびやって来る常連以外の客の話も、悦子は同じようにじっくりと聞いてやった。やがて、穏やかな日々の暮らしに変化が訪れていく……という展開。
時間の流れが止まったような落ち着いた内装の喫茶店。ここを、“弱い人”たちがたびたび訪れる。悦子は人の話をただひたすら聞いて、穏やかな口調で話し掛ける。相手を丸ごと受け止める姿勢は、まるでカウンセリングのお手本のよう。悦子の前で、相手は無意識に心の内をさらけ出していく。そんな女性が一人になったとき、ふと孤独感をにじませ、胸の内を告白する場面が印象的だ。配役に意外性がなく無難な点は否めないが、悦子を慕うおい役の阿部さんのたたずまいはいい。破天荒で不器用だが愛情深く憎めない。悦子に心配をかけながら、実は見守っているという二人の関係性も温かい。小さな共同体である村人たちの姿には、寄り添い合って生きる助け合いの精神が貫かれている。房総半島の明鐘岬と実在の喫茶店が原作のモチーフとなっているという。クラシックギタリストの村治佳織さんがメインテーマを弾いている。丸の内TOEI(東京都中央区)ほかで11日から公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。今作観賞後はネルドリップのコーヒーを飲みたくなります。個人的には、豆は酸味よりも苦みを重視しています。