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世界初の宇宙飛行士、ユーリー・ガガーリンを題材にした「ガガーリン 世界を変えた108分」(パベル・パルホメンコ監督)が20日から公開される。厳しい訓練を経て、旧ソ連の宇宙船ボストーク1号に乗ることに決まり、地球を1周して帰還する孤独な旅路を、ガガーリンの家庭や半生を織り交ぜながら明かしていく。ガガーリン生誕80周年を記念してロシアで製作された。
東西冷戦時代のソ連、バイコヌール宇宙基地。3000人以上の空軍パイロットの中から選抜された20人の宇宙飛行士候補生の中に、27歳のユーリー・ガガーリン(ヤロスラフ・ジャルニンさん)がいた。候補生たちは我こそが宇宙に旅立つのだという同じ夢を持つ同志として、厳しい訓練を受ける日々を送っていた。ガガーリンはゲルマン・チトフとともに最後の2人に絞られたが、2人は固い絆で結ばれていた。上層部はどちらを選ぶか迷い、ガガーリンの妻バレンチナ(オルガ・イワノワさん)は、命懸けのミッションに、もし夫が選ばれたら……と気をもんでいた。ガガーリンが選ばれ、宇宙船が打ち上がり、管制塔とのやり取りも順調。地上では「ソ連の英雄」に市民が沸いていた。しかし、最大の危険である大気圏再突入に際して問題が発生し……という展開。
ガガーリンの時代、宇宙に行くのはチームではなく、たった一人。なんて孤独な旅路なのだろう。しかも狭い宇宙船で、帰還方法も危険極まりない。広大な場所にポツンと帰ってくる丸い宇宙船を俯瞰(ふかん)でとらえたシーンはなんともシュールで、奇跡と孤独がないまぜになっている。そんな人類の偉業にガガーリンの半生を重ね、若き男性の勇気と人間像を浮かび上がらせている。だがあくまでも淡々とした描き方だ。過剰なCG技術を使わず、当時のミッションをリアルに伝える。劇中のガガーリンは宇宙を眺めながら、幼い頃のことを思い出す。これは死を覚悟したからこその回想なのだろう。両親や妻や娘との描写には心が温まり、労働者の息子、あるいは家庭の父としての姿を浮かび上がらせる。演じるジャルニンさんの輝く笑顔は、写真で知るガガーリン本人を彷彿(ほうふつ)とさせ、宇宙飛行士に選抜された理由に説得力を与えている。実物大で造られたという宇宙船ボストーク1号のセットも必見だ。新宿シネマ・カリテ(東京都新宿区)ほかで20日から公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。今月公開作で一番泣けたのは、シンガポールの映画「イロイロ ぬくもりの記憶」(アンソニー・チェン監督)でした。