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作家のよしもとばななさん初の新聞小説を映画化した「海のふた」(豊島圭介監督)が18日から公開される。故郷の西伊豆に戻った女性が、かき氷屋を始めることで、自分と他人の人生を再スタートさせる。主演は、モデルや女優、イラストエッセー執筆など大活躍の菊池亜希子さん。
まり(菊池さん)は、都会の喧騒(けんそう)から逃れ、故郷の西伊豆に帰って来た。地元で家業の酒屋を継いだ元彼のオサム(小林ユウキチさん)に、この町でかき氷屋を開くことを宣言する。まりは、店舗を見つけ、自分で改装していく。ある日、母親の大学時代の友人の娘、はじめ(三根梓さん)が家にやって来る。はじめは一緒に暮らしていた祖母を亡くしたばかりで顔にやけどの痕があった。しばらく一緒に暮らすことになったはじめは、まりの店を手伝い始める。客足はまばらとはいえ、充実感を感じていたまりだったが、ひなびた町で商売をする苦労を知りつくしていたオサムと口論になってしまう……というストーリー。
海がもう一つの登場人物のような存在感だ。絶え間なく聞こえる波の音がそう思わせるのかもしれない。今作には明け方、昼間、夜、さまざまな時間帯の海が出てくる。まり、はじめ、オサムの3人は、同じ場所で別々の海を見つめている。まりは未知なる未来を見つめ、はじめは不安を癒やしていく。しかし、オサムは変わっていく町に明るさを見いだせない。おしゃれ女子が喜びそうな手作り感いっぱいのかき氷屋。そこで一緒に働くまりとはじめ、2人の女性の心のふれあいを、ほのぼのとゆったりと見せていきながら、カメラは次第にズカズカと3人の心の中に入り込んでいく。過去を語る映像はまったくなく、現在だけが進行していくが、菊池さん、三根さん、小林さんの芝居の中にこれまでの葛藤、不安がありありと浮かんでいる。若い世代が自分の人生と向き合い、自分らしく生きようとする姿に、拍手を送りたくなる。よしもとさんが家族で毎年夏に訪れる西伊豆の土肥で撮影を行った。観光地ではない伊豆の風景が、映画の独特の空気を作っている。有名かき氷店の石附浩太郎さんが、かき氷監修を担当している。新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほかで18日から公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。かき氷は頭痛になるので、もう何年も食べていませんが、これを見て食べたくなりました。