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かつての人気アニメ「名犬ジョリィ」のセシル・オーブリーさんの原作「アルプスの村の犬と少年」に新たなエピソードを加えて映画化した「ベル&セバスチャン」(ニコラ・バニエ監督)が19日から公開される。少年とグレート・ピレニーズ犬の心温まる友情物語に、ナチスの影が忍び寄り、命懸けのアルプス越えを迫力ある映像で描く。
1943年、ナチス占領下のフランス、アルプスの小さな村が舞台。孤児のセバスチャン(フェリックス・ボシュエ君)は、おじいさんのセザール(チェッキー・カリョさん)とセザールのめい、アンジェリーナ(マルゴ・シャトリエさん)と一緒に暮らしている。セバスチャンは、山の向こうの“アメリカ”にいる母親がクリスマスになると帰ってくると信じていた。しかし、セザールは本当のことをセバスチャンに言えず苦しんでいた。ある日、セバスチャンは山で大きな野犬に出くわす。野犬は村人から家畜を襲う「野獣」と呼ばれ、わなを仕掛けられたが、セバスチャンは野犬と仲よくなり……という展開。
少年と少年よりも体の大きな白い毛むくじゃらの犬が遊んでいるだけで絵になるが、アルプスの絶景という舞台ではなおさらだ。セバスチャンは野犬にベルと名付けて心を通わせていく。しかし、この映画はただの“ほのぼの映画”ではない。村人に殺されそうになったベルを、セバスチャンは秘密の隠れ家に匿うが、のちに出てくる映画のオリジナルエピソードでもあるユダヤ難民を匿うシーンと重なって見える。野犬を迫害するのも村人ならば、ユダヤ人を逃がす手伝いをしているのも村人だ。そんな大人たちを冷静に見つめるセバスチャンは、やがて育ての親であるセザールに反発し、自らの行動を選び取っていく。後半は映画の表情は一転し、吹雪の中、命懸けの峠越えとなる。この迫力はスクリーンでぜひ体験してほしい。山を舞台にした最近の映画の中でも最高傑作ではないだろうか。山のさまざまな表情が楽しめるのも、冒険家でもあり「狩人と犬、最後の旅」(2004年)のバニエ監督の手にかかってこそ。「ニキータ」(1990年)などのカリョさんのおじいさんぶりにも注目だ。19日から新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。「ジョリィ」の歌が頭から離れません。