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オダギリジョー:中谷美紀と「FOUJITA」対談 日仏の風景の中にフジタが「ただ在る」

 日仏合作映画「FOUJITA」が14日に公開された。シャガール、モディリアーニらとともに1920年代のフランスの画壇で外国人でありながら活躍した画家・藤田嗣治(つぐはる)を、二つの時代と二つの文化の中で静かに見つめた作品だ。「死の棘」(1990年)などを手がけた小栗康平監督の10年ぶりの作品。主人公のフジタを演じたオダギリジョーさんとその妻・君代を演じた中谷美紀さんに話を聞いた。オダギリさんは「監督の誠意ある表現に身を任せて、そこにいようと思いました」といい、中谷さんは「オダギリさんは本当に楽に映画の中のフジタとして存在しています」と語った。

 ◇「フジタになろうとせず監督が目指すフジタになった」(オダギリさん)

 1920年代。二つの大戦の間の「狂騒の時代」と呼ばれた浮かれ気分の華やかなパリで、フジタはエコール・ド・パリの寵児(ちょうじ)としてもてはやされていた。冒頭、フジタがアトリエでキャンバスに向かう姿が映し出される。オカッパ頭にロイド眼鏡。演じるオダギリさんが現存する写真のフジタにそっくりだと公開前から評判だった。

 「必ずしも風貌(ふうぼう)は似せていなくて、髪型はオカッパでなくてもいいと監督からいわれていましたが、カツラと眼鏡を『ちなみに……』という感じで提案してみたら、『面白い』といわれて、前半部分で使うことになりました」とオダギリさん。だが、「フジタになろうと思わなかった」という。その理由は、「伝記ものにしたくない。映画だからできるフジタをつくりたい」という小栗監督の意向があったからだ。

 オダギリさんは「もちろん、面相筆で絵を描いたり、フランス語を勉強したりといった課題はありましたが、監督から『フジタについて勉強しないでいい』といわれました。とはいえ、調べてしまうんですが……。それを一旦すべて忘れて現場に入りました。小栗監督のイメージするフジタを追求したかったので、本や歴史に残るフジタのイメージは捨てて現場に臨みたいと思っていたからです」と語る。

 映画は、フランスと日本の二つ国が舞台。モンパルナスで有名だったモデルのキキや画家たちとカフェで騒ぎ、お調子者という意味の「フーフー」というあだ名も自分を覚えてもらえる手段として歓迎したフジタのパリ時代。そして、陸軍からの要請で「アッツ島の玉砕」を描いた戦時中の日本時代。前半と後半、異なる文化の風景の中、衣装も髪形も異なるフジタについて、「フランスと日本、全く違う世界ですね。置かれた状況にいかに順応できるか、そこに存在することを一番大切にしました。ロケ地の自然や環境が、芝居を助けてくれました。パリではフジタはとても有名で、撮影現場で声をかけてくださる方もいました」とオダギリさんは振り返る。

 中谷さんは「お芝居の中で、ただいる、ただそこに存在することはとても難しいこと」と語る。今回、初共演となった2人は同い年。オダギリさんは「僕の方がデビューも遅かったため、中谷さんは先輩なのですが、同い年なのでどこかライバルのような目でも見てしまいます(笑い)。いつか共演したいと思っていました。中谷さんは頭の回転が速くて判断も的確で、俳優として魅力となるような、いい意味での毒も持っていました」と初共演を素直に喜ぶ。

 ◇「監督は観客の知性と想像力を信じている」(中谷さん)

 五番目の妻・君代の登場は、フジタが日本に戻ってからだ。1940年代。それまで、フランスの女性と浮名を流したフジタが、戦時下の日本で君代と2人きりで静かに暮らしている。中谷さんは「感情をせりふに込めない芝居が難しかった」といい、「(オダギリさんの)フジタがフジタでいてくださったので、君代も存在できた」と話す。2人の夫婦関係については「フジタに甘えるシーンも出てきますが、実際はアトリエに君代は入れなかったそうで、手のひらでフジタを転がしているつもりでも、フジタに転がされていたのかもしれません」と想像する。

 撮影前にフジタの晩年のアトリエを訪れ、設計からフレスコ画までフジタが手がけたノートルダム・ド・ラ・ペ教会に足を運んだ中谷さんは、それまでファンではなかったフジタの乳白色の絵をとても好きになったとも語る。「東洋人だからこそ西洋人の白い肌が際立って見えたのでしょう。根なし草のように帰る場所を持たなかったフジタが、日本とずっとつながっていたと実感しました」と話す。

 フジタが君代と暮らした日本の原風景のような疎開先では、小栗監督らしい静謐(せいひつ)な映像美が画面の隅々まで広がる。説明を排し、風景に情感を込める小栗監督作品の真骨頂となった。小栗作品について2人はこう語る。

 「小栗監督は、余白の中に大事なものを詰め込むクリエーター。本当の表現に誠意をもって追求する方です。俳優に芝居やせりふで感情を説明するようなことをさせません。それは見ている方に伝わる感情を限定してしまうから。表現の広がりや可能性を大切にされているのが分かります」(オダギリさん)

 「小栗監督は、観客のインテリジェンスと想像力を信じています。日本人に備わっている行間を察する文化そのものではないでしょうか」(中谷さん)

 完成した映画を一観客として観たオダギリさんは「本当に見てよかったと思った」と話す。「うまくいえないのですが、とても充実した貴重な2時間を過ごした気持ちになりました。今の社会で見失いかけている大切な時間のように感じました。この映画をご覧になることで、文化的で豊かな時間に癒やされるかと思います。分かりやすい映画で何も考えず楽しめる、という作品ではなく、受け取る何かが人生の糧になる、そんな映画だと思います。結局のところ、僕はフジタがどういう人間なのかつかんでいないし、つかもうとも思っていません。感じることは一人一人違っていていいと思います」とメッセージを送った。

 出演は、オダギリさん、中谷さんのほか、アナ・ジラルドさん、アンジェル・ユモーさん、マリー・クレメールさん、加瀬亮さん、りりィさん、岸部一徳さん、青木崇高さん、福士誠治さん、井川比佐志さん、風間杜夫さんら。14日から角川シネマ有楽町(東京都千代田区)、新宿武蔵野館(東京都新宿区)ほかで公開中。

 <オダギリジョーさんのプロフィル>

 1976年生まれ。「アカルイミライ」(2003年)で映画初主演。「あずみ」(03年)で日本アカデミー賞最優秀新人俳優賞を受賞。「血と骨」(04年)で日本アカデミー賞、ブルーリボン賞の最優秀助演男優賞を受賞。「ゆれる」(06年)、「東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~」(07年)で日本アカデミー賞優秀主演男優賞、「舟を編む」(13年)で同賞優秀助演男優賞を受賞。キム・ギドク監督作「悲夢」(09年)など海外出演作も多数。15年は「深夜食堂」「S~最後の警官~ 奪還 RECOVERY OF OUR FUTURE」「合葬」が公開。待機作に「オーバー・フェンス」(16年、山下敦弘監督)がある。

 <中谷美紀さんのプロフィル>

 1976年生まれ。93年に女優デビュー。「壬生義士伝」(2003年)で日本アカデミー賞優秀助演女優賞、「嫌われ松子の一生」(06年)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、「自虐の詩」(07年)で、同賞優秀主演女優賞、「ゼロの焦点」(09年)で同賞優秀助演女優賞、「阪急電車 片道15分の奇跡」(11年)で同賞優秀主演女優賞、「利休にたずねよ」(13年)で同賞優秀助演女優賞を受賞。最近は、「ロスト・イン・ヨンカーズ」(13年)で読売演劇大賞最優秀女優賞を受賞するなど舞台でも活躍。出演した映画に「清須会議」(13年)などがある。最新出演作は「繕い裁つ人」(15年)。

 (取材・文・撮影:キョーコ)

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