「追憶の森」のワンシーン (C)2015 Grand Experiment,LLC.
マシュー・マコノヒーさんと渡辺謙さんの共演が話題の「追憶の森」(ガス・バン・サント監督)が29日から公開される。富士山の北西に広がる青木ケ原の樹海にやって来た米国人男性が、一人の男と出会うことで、自らを見つめ直すさまを描いている。
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アーサー・ブレナン(マコノヒーさん)は、片道切符で米国から日本にやって来た。目的地は富士山の裾野に広がる青木ケ原の樹海。鬱蒼(うっそう)とした森の中に足を踏み入れ、薬を飲み、永遠の眠りにつこうとしたとき、けがをした男(渡辺さん)が通りがかる。助けを求める男を放っておくことができなかったアーサーは、一緒に出口を探し始める。やがて、アーサーは男に「自分がなぜ樹海に来たのか」を語り出す……という展開。
アーサーはインターネットで死に場所を検索して、日本の樹海にやって来た。神秘的な森の俯瞰(ふかん)から始まり、日本にやって来るまでが簡潔に描かれ、自殺への迷いのなさを感じさせる。ところが、こんな深い森の中で、どうしたことか一人の男と出会ってしまった。その傷ついた男は、アーサーに助けを求めてくる。「道に迷ったんだ。よくあることだ」と言いながら、アーサーは己のことを振り返っていく。うまくいかなかった結婚生活。夫婦のすれ違いが、巧みな会話を使って1シーン、1シーンの中に凝縮されて描かれる。夫婦関係は自分でも舵(かじ)をとれただろう。だが、樹海の自然は容赦なかった。出口を求めて森の中をさまよう男2人は、崖から転げ落ち、鉄砲水に打たれ、ボロボロになる。体を使って必死になる環境に置かれたことでむき出しになるのは、ただそこにある「自分」。樹海の自然は、自殺願望の男に生への強い気持ちに気づかせながら、罪の意識からも解放していく。
突然現れた日本人は、アーサーに「ここは西洋人のいう煉獄(れんごく)だ」と教える。生と死が円環の中にある東洋的な思想が、アーサーを慰めるところが印象的だ。自分の知らなかった妻にアーサーが出会えたとき、穏やかな気持ちが静かに胸に広がる。「[リミット]」(10年)のクリス・スパーリングさんの脚本を、「プロミスト・ランド」(12年)のバン・サント監督がスピリチュアルな映画に仕立てた。アーサーの妻役をナオミ・ワッツさんが演じる。29日からTOHOシネマズ 新宿(東京都新宿区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。でも、犬も好きです。
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