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女優の波瑠さん主演のNHKドラマ「お母さん、娘をやめていいですか?」(金曜午後10時)の最終回が3日、放送される。波瑠さん演じる早瀬美月が、友達以上に仲のよかった母親の“呪縛”から逃れようとする……という複雑な母娘関係を描いた物語。番組ホームページの掲示板などには50代の女性を中心に、共感の声が続々と寄せられている。演出を手がけるNHK名古屋放送局の笠浦友愛さんは「『我が家も同じです』という声が予想以上に多かった」と反響に驚き、同作を「アンチホームドラマかもしれない」と語る。笠浦さんに作品への思いを聞いた。
◇井上由美子が描く50代の母娘問題 徹底した取材で「ディテールはリアルに」
ドラマは「白い巨塔」などで知られる脚本家、井上由美子さんによるオリジナル作。井上さんの提案で、娘であり、親でもある世代、50代の問題として母娘問題がテーマとなり、臨床心理士で母娘の問題に詳しい信田さよ子さんが臨床心理考証を担当した。井上さんや笠浦さんが、実際に母娘の問題に悩む人々を取材したほか、井上さんは、信田さんが行っているカウンセリングにも参加した。
脚本は約1年かけて作られた。リアリティーを重視しており、斉藤由貴さんが演じる母・顕子の異常とも言える振る舞いも、実際にあった例を基にしているという。
笠浦さんは「フィクションなんですけれど、ディテールはなるべくリアルに、実際にあり得るギリギリのところを、井上さんと探りながら脚本を作りました。どこまで顕子が“狂って”いくのかという点は、面白さでは見せたくなかった。(娘が恋人と同居している)アパートに入り込んでしまうエピソードも、実例がありました」と振り返る。その結果が、今回の反響の大きさにつながる一因となった。
◇最終回を迎えるも「家族が元に戻ることはない」
最終回は、母の“呪縛”から逃れようと家を出て、一人暮らしを始めようとしていた美月が、母・顕子にほだされて、実家に戻る姿が描かれる。顕子は、美月を部屋に閉じ込め、「自分を殺して」とまで言って美月を引き留める。そんな美月と顕子の姿に父・浩司(寺脇康文さん)は落胆。しかし美月の恋人・松島太一(柳楽優弥さん)が現れ、美月を強引に連れ出して、長年、会っていなかった松島の母に会いに行く……と展開する。
結末は、井上さんと試行錯誤しながら作り上げ、一度は、信田さんから厳しい意見を受けて練り直すことになった。
笠浦さんは「父親(顕子の夫)を含めて、顕子がどう娘への思いに折り合いをつけていくのかという物語になる。そこにこの物語の意味がある」といい、「家族が元に戻ることはない。戻らない中でどういうことがあり得るのか。『こんな親は嫌だ』『こんな親にはならないで』と冷たく突き放すわけにはいかなかった。非常にデリケートな問題で苦心しました」と振り返る。
笠浦さんの元には、このドラマを実生活の「参考にしたい」という声も届いているという。しかし、結末は「こういった問題への答えにはならない」と考えている。「(母娘問題は)非常にデリケートで、正解はない。ドラマは、早瀬家の母と娘、父の選択として、こういう物語にしたと言うしかないんです」と、あくまでも劇中での選択でしかないと話している。
◇ホームドラマが変わる? 「家族だけが正解じゃない」
笠浦さんは、1970年代に「岸辺のアルバム」などの“家族崩壊ドラマ”が流行したことを挙げ、「これまでのホームドラマは、(家族が崩壊しても)最終的に美談にして、家族内で(問題を)おさめてきた。今は家族だけが正解ではない時代。家族もいいし、家族じゃなくてもいい。一人で生きていってもいいし、違う家族形態で生きている人もたくさんいる。今のホームドラマだけど、昔のホームドラマからするとアンチホームドラマ。ホームドラマというもの自体を問いかけた作品になったかもしれない」と話す。
さらに「家族愛を否定するわけではないですが、日本は、最終的に家族が受け皿になって救われるという意識が強すぎる国。家族がセーフティーネットや“答えである”とするから、家族の中にいろんな問題が隠れてしまっている。家族から“抜け出す”ことで生きている人もいることを、肯定しないといけない」と作品に込めた思いを語る。
劇中で、清涼剤のような役割を果たしているのが柳楽さん演じる美月の恋人、松島太一だ。「松島が、母娘問題の解決になるわけではない」としながらも、「松島がきっかけとなり、力となって美月は目覚めていきました。家族と無関係な人が、どれだけ救いになるか、家族から離れてものを言ってくれる人間がいかに大切かということを、松島が体現しているんです」と、その役割の重要さを明かしている。
早瀬家の面々にどんな結末が訪れるのか注目したい。最終回「人形の家」はNHK総合で3日午後10時から。