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土屋太鳳:女優業の支えは現場で出会った人たちの言葉 アニメ「フェリシーと夢のトウシューズ」吹き替え

 劇場版アニメ「フェリシーと夢のトウシューズ」(エリック・サマー、エリック・ワリン監督)が12日に公開された。映画は、19世紀末のフランスを舞台に、バレリーナを夢見る少女が施設を抜け出してパリへ向かい、偶然たどり着いたオペラ座でライバルたちと競争しながら夢の舞台を目指す姿を描く。日本語吹き替え版では、踊ることが大好きな少女フェリシーを土屋太鳳さん、元バレリーナでル・オー夫人のもとで掃除係として働くオデットを黒木瞳さん、そのル・オー夫人を夏木マリさんが声を担当している。「フェリシーの境遇にとても共感できる」という土屋さんに、映画や女優業などについて聞いた。

 ◇海外のアニメは独特の空気感とリズムがあった

 自身が声を担当したフェリシーの印象を、土屋さんは「すごく感受性が豊かで感情の起伏が激しい」と評する。「一つのシーンでいろんな感情を持つ女の子なので、それを表現できたらいいなというふうに思っていました」と演技プランを明かす。しかし、「海外のアニメーションの声は独特の空気感とリズムがあり、日本語の文化や言語とは違った表情だったりもするので、最初はすごく打ちのめされました」と振り返る。

 アフレコを続けていく中で、「声を当てていけばいくほど、自分自身も元気になれました」と笑顔を見せ、「物語が進んでいくにつれてどんどん(フェリシーの)表情などが変わっていき、ちょっと思春期で揺れ動く感じもあったりして、そういった成長をしている姿に合わせて声も変えていければと、意識してやりました」とアフレコ時の心境を語る。

 フェリシーは情熱と勇気にあふれ、夢をつかむために必死に努力する姿が印象的だ。演じていて土屋さんは「フェリシーの年ごろ(10代)を思い出して共感するというより、今の私が、すごくフェリシーに共感しました」と感じ、「オーディションで一人一人落とされていく感じとかがすごくシビアに描かれていて、なんか分かるな、と」と理由を説明する。

 フェリシーが置かれている環境を自身に投影し、「バレエでは体を整えていかないといけないし、練習も休めない。だから気付いたら食事とか友だちと会う時間など、プライベートが少なくなっていくと思います」と話し、「夢を追いかければ追いかけるほど、そういった(レッスンとプライベートの)バランスを取りにくくなっていくというのが、今の自分としてフェリシーに共感できた部分だなと感じました」と自己分析する。

 ◇なぜ芝居をするのか…

 フェリシーは母からもらったというオルゴールを大事にしているが、土屋さんにとって支えとなるものは「言葉かな。『トウキョウソナタ』(08年公開)という映画でデビューさせていただきましたが、そのときに香川照之さんと出会って、『女優として生きていくなら、大事にしてほしいことが二つある』と言われました」と切り出し、「一つは『感謝を忘れないこと』で、カメラマンさんや録音部さん、美術さん、照明さん、いろんな方がいてやっとその場に立てるから感謝を忘れないこと。もう一つは自分が不利だと思ったときは大きな声であいさつをすること」とその内容を説明する。

 実際にNHK大河ドラマ「龍馬伝」のオーディションの際、「当時、ジュニア雑誌のモデルの有名な子たちが来てたりしていて、わあどうしよう……と思ったのですが、自分が不利だと思ったときこそ大きな声でいこうと思い、大きな声であいさつしました」と明かし、「今でも朝のあいさつや『ありがとうございました』など、あいさつはしっかりするように心がけています」と語る。

 物語ではオデットがバレエの先生としてフェリシーを導く中、「なぜ踊るのか」と問われるが、土屋さんに「なぜ芝居をするのか」と聞いてみると、「女優だからだと思います」と断言した後、「今、ちょっと恥ずかしくて……」と照れくさそうに笑う。

 その真意について、「本当に女優って言えるのはいつになるのかなって思っていて、今でも『私は女優です』とはなかなか言えないというか、恥ずかしいです」とはにかみ、「まだ女優にたどり着けていないから、“女優さん”って言いたくなるんですけど、エランドール賞をいただいたときに、『私はまだ女優になれないです』と言ったら失礼だな、逃げているなって思ったんです。だから女優と言おうと決意しました」と打ち明ける。

 ◇多くのハードルを乗り越えたどり着いた心境とは

 女優として注目を浴び続けている土屋さんだが、NHK連続テレビ小説「花子とアン」の撮影中は、「現場にいることが楽しくて、(撮影が)ずっと続いてほしいって言ったら、おねえやん(吉高由里子さん)に『何、意味分からないこと言ってるの』って」と笑われたと言い、「こんなに楽しいし、お芝居も楽しいのにって思っていたんですけど、『まれ』をやらせていただいたとき、もっとこうお芝居したいのにできないとか自分のできなさを目の当たりにして……」と当時を振り返る。

 「朝ドラ『まれ』は結構つらかったですが、体力だけはと思って絶対に風邪を引かないと決めて、つらいときも笑顔でいるということだけはやろうと」決心して撮影に臨んだが、「やったからこそ分かる、カメラが怖くなったり、『よーい、スタート』との切り替えが分からなくなり、セットと現実が入り交じっちゃって集中できなくなってしまったり……」とさまざまな状況や感情を経験。結果としては、「『まれ』が大好きですし、『まれ』を乗り越えられてよかった。一つ一つの作品には結構、ハードルがあるんです」と明かす。

 そういったことを乗り越え、土屋さんは「最近バランスが大事なのかなと気付き、テストから常にバランスを取ろうと思ったら、やっぱり(本番で)爆発できないというか、本番でバランスを取るために積み重ねていくのがいいのかな」と感じ始め、「バランスがちょっと崩れたときにこそ伝わる強さや繊細さみたいなのもあるのかなとか、いろいろ考えてはいますが、常にやりながら試していければと思います」と神妙な面持ちで語る。

 ◇大活躍だが「実感はあまりない」

 テレビアニメ「僕だけがいない街」で声優を務めた経験のある土屋さんだが、洋画の吹き替えは今回が初めて。「体で表現する、細胞から血管まで意識してお芝居をしようということは常に心がけていますが、映像だと手の動き方や空気感、カメラワークもありますし、顔の表情だったり、やっぱりそこに甘えてしまう自分がいる」と反省を口にし、「声優さんは熱量がすごくあって、対象も、何に対して言っているのかも分かる。あとは作品に対する熱量もすごくて、舞台あいさつとかを拝見してもものすごくしゃべられる」と感嘆する。

 そして「(声優に対して)本当に尊敬していますし、声を当てるというのは本当に難しい」としみじみ語り、「お芝居をするという部分では一緒なんですけど、ただ抑揚をつければいいわけではなく、呼吸とどこを当てるかというのが特に難しかったです。遠くに話していて叫ぶんじゃなくて、遠くに話しているように聞かせる声をするとか」とアフレコで苦労した点を明かす。

 「難しいです。だから本当に甘いなって思います」と改めて口にするも、「精いっぱいやらせていただいたので、反省点はたくさんありますが、一人でも多くの方にこの作品が届いたらいいなと思います」と思いをはせる。

 そんな土屋さんが子供の頃によく見ていたアニメは、「クレヨンしんちゃん」「ドラえもん」「名探偵コナン」などで、特に「『クレヨンしんちゃん』が大好き! 物語がすごく感動するんです」と笑顔を見せる。ただ、「(当時の)金曜日はドラえもん、しんちゃんの流れから『ミュージックステーション』につながるんですけど、そのオープニングが流れ始めると、(就寝時間のため)うちはだいたいプツッと切られていました」と笑顔で語る。

 今後も出演作が目白押しと引っ張りだこの状況だが、「実感はあまりなくて、声をかけていただけるようになったのは多いんですけど、生活が変わったかといえば何も変わってない」と打ち明け、「演じているときは『誰が見るんだろう』とか、どういう方が見るのかなって想像できないんですけれど、今回のようにイベントや取材などで感想をいただいたりとかすると、届いているのかなって」とファンからの感想が支えになっているという。

 多忙な日々が続く中、「健康じゃないと何もできないなって本当に感じています」と体調管理の大事さを実感し、「役を大事にするのと同時に、自分のことを大事にする。それが役を大事にすることにもつながると思っています。華奢(きゃしゃ)な子が多く、演じる役もそうですが、体形などにとらわれてこれまでストイックになりがちな面もありました」と言い、「いつも終わった後に自分の人生は進んでいるかなって思うので、体調管理はしっかりしつつも、楽しむところは楽しむというか、友だちと5分間でも会うとかそういうことは大事にするようにしています」と前を向いた。映画は全国で公開中。

 <プロフィル>

 つちや・たお 1995年2月3日生まれ、東京都出身。2005年にスーパー・ヒロイン・オーディションMISS PHOENIX審査員特別賞を受賞し、08年公開の「トウキョウソナタ」で女優デビュー。主な出演作に、NHK大河ドラマ「龍馬伝」、NHK連続テレビ小説「おひさま」、NHK連続テレビ小説「花子とアン」、NHK連続テレビ小説「まれ」、「IQ246~華麗なる事件簿~」(TBS系)、映画は「るろうに剣心」シリーズ(14年)、「orange」(15年)、「青空エール」(16年)、「兄に愛されすぎて困ってます」(17年)などがある。今後、出演した映画「トリガール!」が9月1日、「8年越しの花嫁」が12月16日に公開を控えている。

 (取材・文・撮影:遠藤政樹)

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