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札幌の歓楽街ススキノを舞台に、大泉洋さん演じる“探偵”の活躍をハードボイルドタッチで描く映画「探偵はBARにいる3」(吉田照幸監督、12月1日公開)。ベースになっているのは、札幌在住のミステリー作家、東直己さんの「ススキノ探偵」シリーズ(ハヤカワ文庫)で、これまで2本の映画が公開された。3作目となる今作では、松田龍平さん扮(ふん)する相棒の高田と共に、北川景子さん演じる謎多き女性、岬マリにまつわる事件を追っていく。前作「探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点」(2013年)から4年ぶりに探偵を演じた大泉さんが、「芝居を超えた芝居」を見せたシーンや、バラエティー番組の罰ゲーム以上の体験を強いられたシーンについて語った。
◇地下街の人の多さにびっくり
今作の撮影中、現場からホテルに戻るまでの車の中で、「やっぱり俺、『探偵』好きだなってマネジャーに言ったことを覚えているんです」と振り返る 大泉さん。「スタッフ、共演者、台本、ススキノの街、すべてひっくるめて好きなんだと思うんです。ススキノって、僕にとっては子供のころから知っている街だし、今でもレギュラー(番組)の仕事で(札幌に)帰れば、ススキノで飲むわけで。そこで撮れているということも含めて、やっぱり(このシリーズは)好きだなと思ったんでしょうね」としみじみ語る。
それだけに、近年のススキノのある変化には、一抹の寂しさを感じたようだ。「昔に比べると、地上を人が歩いていないんですよ。『探偵』にも出てくる、ススキノで一番有名な、“ニッカのおじさん”がいる4丁目の交差点にすら人がいないんです。だから俺、札幌って人がいないなあと、ちょっと寂しいなと思いまして。で、一回、地下(街)に下りたら、とんでもない数の人が“サケの遡上(そじょう)”みたいに歩いていて(笑い)、こんなに(人が)いたんだって思いましたよ。だからね、地下を整備し過ぎたんじゃないかと思うんです。やっぱり冬は寒いから、みんな地下を歩きますよね。すると外(地上)のお店に行かないでしょ。本当にモグラのように、自分の目的地近くの穴からぴゅっと出るだけだから、途中で(ほかの店に)寄るということがないんじゃないかなと思って。だから『探偵』で、ああいう(人混みの)場面を撮るときは大変ですね。エキストラをものすごく呼ばないといけないから」と語る言葉に、札幌を愛するが故の複雑な思いがのぞく。
その言葉通り、探偵がマリとススキノの雑踏の中を、腕を組んで歩く場面では、100人ほどのエキストラが用意された。当時の心境を、「ほとんどはエキストラだけど、それでも一般の方も入ってくるから、スタンバイにすごく時間をかけて、僕らも現場で1時間くらい待って、エキストラさんを完璧にして。あれだけのエキストラさんを付けて、僕らがセリフをとちるわけにいかないから緊張しました」と打ち明ける。とはいうものの、「本番!」の掛け声とともに、ゲリラ的にカメラを回した撮影は一発でオーケーだったそうだ。
◇芝居を超えた芝居
役者として不思議な体験もした。それは、建物の屋上にある観覧車に乗った探偵とマリを、カメラが“引き”でとらえたシーン。あたりにスタッフはおらず、そばにいるのは北川さん一人だけ。「あの密室で、(北川さんと)あの距離感で。だから僕にとっては、役者としてすごく不思議な体験でした。疑似体験というか、本当にマリがそこにいて、彼女に、『お前、何が目的なんだ』と尋問しているみたいで。彼女(北川さん)もまた、本気でお芝居していますから、なんて言ったらいいんだろう……初めてお芝居を超えたお芝居をしたような感覚でした」と、貴重な体験を明かしながらも、「でもそれ“引き”ですから。そっちを“寄り”で撮っておいてほしかったですよ(笑い)」とちょっぴり悔しそうだった。
肉体的に大変だったのは、2月の寒風吹きすさぶ中、パンツ一丁で船にくくられる場面。そこでの体験は、「バラエティー番組の、ちょっとした罰ゲームもこれに比べたら屁でもない」そうで、「バラエティーで、『大泉さん、罰ゲームです。小樽の冬の海にパンツ一丁で船にくくられて沖に出てください』と言われたら怒りますからね(笑い)。できるかそんなこと!って断りますよ。だけど、芝居となると、『文句を言わずにやってくれ』って言われるから。ぼやいたって誰かが代わりにやってくれるわけじゃないですから」と役者魂を見せつつも、「ひどかったね、あれも……」というつぶやきに、若干の恨み節ものぞかせる。
◇まるで高倉健!
もっとも、今回の“パンツ一丁”に匹敵するほどのシーンは、「探偵」シリーズでは“お約束”。その撮影のときはいつも、スタイリストさんが用意してくれるたくさんのパンツの中から、大泉さんが好きなものを選ぶのだという。今回も「お疲れ様でしたって、そのパンツをもらって帰るだけ、みたいなね。ギャラがパンツかよ、そんな気分でした(笑い)」とぼやくも、そのパンツは今も大泉さんの家のタンスに「思い出のパンツ」としてしまわれているそうで、今後、「気合を入れるときはあれをはいていこう(笑い)」と話した。
一方で、同じ厳寒の小樽の海を背景にしながら、大泉さんが、しびれるほどの哀愁漂う演技を見せる場面もある。それは探偵が、鈴木砂羽さん演じる伝説の娼婦モンローを訪ねる場面。まるで高倉健さんの映画のワンシーンのようで、大泉さんが健さんに見えるほどだ。その指摘に大泉さんは「そうそう! プロデューサーもそう言っているんですよ。いやあ洋さん、間違いなくこれ、健さんですって(笑い)」と、パンツ一丁のシーンとは打って変わって、うれしそうに答えていた。
<プロフィル>
おおいずみ・よう 1973年4月3日生まれ、北海道出身。北海道発の深夜番組「水曜どうでしょう」(96年~)でブレーク。演劇ユニット“TEAM NACS”に所属。主な映画出演作に「アフタースクール」(2008年)、「しあわせのパン」(11年)、「清須会議」(13年)、「青天の霹靂」(14年)、「駆込み女と駆出し男」(15年)、「アイアムアヒーロー」(16年)、「東京喰種トーキョーグール」(17年)がある。18年にはTEAM NACS本公演「PARAMUSHIR~信じ続けた士魂の旗を掲げて」が控えている。
(取材・文・撮影/りんたいこ)