映画「半世界」のビジュアル (C)2018「半世界」FILM PARTNERS
稲垣吾郎さん主演の映画「半世界」(阪本順治監督)が、15日からTOHOシネマズ日本橋(東京都中央区)ほかで公開される。39歳の男同士の友情や家族のエピソードなどを軸に、人生半ばに抱く葛藤を描き出したヒューマン作だ。稲垣さんが新境地の炭焼き職人役を演じて新たな魅力を発揮。長谷川博己さん、池脇千鶴さん、渋川清彦さんら実力派俳優が出演している。
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高村紘(稲垣さん)は、父親から受け継いだ山の中の炭焼き窯で備長炭を作り、妻の初乃(池脇さん)と共に切り盛りしている。息子の明(杉田雷麟さん)は反抗期の真っただ中。ある日、中学時代の同級生で元自衛官の沖山瑛介(長谷川さん)が海外派遣から帰郷した。同じ同級生の岩井光彦(渋川さん)も交えて、旧交を温める。やがて紘は、瑛介の抱える過去を知ることになり……というストーリー。
「十三人の刺客」(2010年)では名悪役の狂気を演じ、「おしん」(13年)では短髪で無骨な父親役を演じた稲垣さん。昨年、「クソ野郎と美しき世界」(園子温監督ほか)の演技が話題になった。
稲垣さんは今回、家業を継いだ炭焼き職人という「ごく普通の男」を演じ、抑制の効いた芝居で魅せる。長谷川さん、渋川さんの演技も秀逸で、男同士のシーンでは中学時代の関係を想像させる親密な空気感を漂わせている。
妻役の池脇さんも絶妙なさじ加減の演技で、稲垣さんとの夫婦のやりとりがリアルで面白い。そのほか、石橋蓮司さん、小野武彦さん、竹内都子さんらが出演し、映画にユーモアを添えている。
田舎の日本家屋に普通の家族。紘は息子に無関心で、妻の初乃に家庭を任せっぱなしだ。冒頭の一家のやりとりは、日本中のどこかにある家族のやりとりと同じで、市井の人々の人生をこれから映し出すのだ、という宣言とも取れ、何気ない芝居に役者のうまさを感じてうれしくなった。
山中では、燃え盛る火を前に、紘が一人切りで黙々と働く姿が丁寧に映し出されている。そのたたずまいや表情から、彼の人生が静かに語られる。真っ赤な火や白い煙に、太古から人の営みを感じてスクリーンに引き込まれた。
広々とした世界を見てきた瑛介の葛藤もあり、違った生き方のように見えた男たちに共通するものが浮き彫りになる。未来ある明の抱える問題も噴出し、容易に引き返せない人生の途上にいる男たちの行方に引き込まれた。
オダギリジョーさんを主演に迎え、キューバでロケをした前作「エルネスト もう一人のゲバラ」(17年)や、吉永小百合さん主演の「北のカナリアたち」(12年)などの阪本監督が、長年「半世界」というタイトルを温め、オリジナルで脚本を書いた。三重県南伊勢町などでオールロケ。昨年開催の第31回東京国際映画祭コンペティション部門で観客賞を受賞した。(キョーコ/フリーライター)
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