取材に応じた有村架純さん
<有村架純インタビュー後編>「フラットでいること」を大切に 「私の態度で気を遣わせないで済むかな」
福山雅治さん主演の映画「ブラック・ショーマン」(田中亮監督、公開中)に出演する俳優の有村架純さん。父を亡くした娘を演じて感じたことや、仕事現場で大切にしている思いを聞いた。(前後編の前編)
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有村架純:「フラットでいること」を大切に 「私の態度で気を遣わせないで済むかな」
◇突然父を失った娘を演じて気づいた「言葉にすること」の大切さ
映画は、東野圭吾さんの小説が原作。元中学校教師の神尾英一(仲村トオルさん)が何者かに殺され、真実を知りたいと願う娘の真世(有村さん)が、マジシャンの叔父・神尾武史(福山さん)と殺人事件の謎に挑む……というストーリー。
真世と父について、有村さんは「お互い平行線というか、交わりたかったけど交われなかった関係」と分析する。
「真世の中では、父とのお別れなんてまだまだ先っていう、どこかおごりがあったと思うんです。父に対して100パーセントの愛情を注いで密に関わってきたかというと、決してそうとは言い切れないけれど、突然の訃報で、『また会えると思っていたのに……』という後悔とか、自分のふがいなさ、喪失感などが複雑に絡み合っていて、自分に対しての怒りみたいなものもがすごく強くあるのかなと想像しました」
役を演じたことで、自身も家族や周りの人たちとの関係性においても気づいたことがある。
「真世は父とのコミュニケーションを怠ってしまって後悔することになりました。それは家族だけでなく、友達や仕事の関係の人に対しても同じで、ちゃんと言葉にしないと相手が思っていることはわからないし、自分の気持ちも伝わりません。はっきり言わないのがいいという考えもあるかもしれませんが、それって実は親切ではないなと感じました」
元々は思っていることを伝えるのは苦手なタイプで、「何を考えているかわからないとよく言われていた」と苦笑いする。
「いろいろなお仕事を経験し、先輩方を見てきて、今のままじゃいけないんだな、と考えるようになりました。俳優を15年やらせていただいて、その中で学んできたことで、今も学び途中なんですけどね」
「裏でああだ、こうだというのは風通しが悪く感じて、私はあまり好きじゃない」という。
「思ったことを伝えるのは、自分の意見を通したいということではなくて、『自分はこう思っているんだけど、どうです?』というのを一緒に考えたいということ。自分本位にならないように、選択する言葉などもよく考えて伝えるようにしています」
◇「誰かがひとりぼっちになるのは嫌」 後悔からたどり着いたコミュニケーション術
強烈なキャラクターの叔父を演じた福山さんとは、今回が初めての共演となる。
「原作や台本を読んでも、真世にはキャラクター付けるような特徴があまり見えなかったんですが、叔父さんをはじめ、キャラが立っている役の方が多かったので、中身をしっかりと作り上げた上で、叔父さんとの会話の部分でお芝居を楽しんでみようかな、とバランスを考えながらやっていました」
「思っていることを伝える」のは役者同士では実践せず、「お芝居のことについて密に話し合うことはあまり多くない」という。
「私もそうなんですけど、おそらく自分が思っていることを言葉にしちゃうと、こぼれ落ちちゃいそうな感じがするというか、今、自分が感じているものを『こういう感情だから、こうですよね』って言葉に出さずに、ずっと大事に秘めていたいものなんじゃないかな。お互いに信頼し合っている芝居の場で、キャッチボールしていくということがスムーズで、一番心地いい関係でいられる気がしています」
2010年にデビューして15年。先輩として若い世代との共演も増えている。
「緊張していたり、縮こまっちゃったりしているようだったら、『大丈夫?』『どう?』と話しかけることもあります。自分が話したことで相手が心を開いて会話してくれたら、私もうれしいですし。もちろんお一人でいるのが好きな方もいるので、そこは様子を見てやっていますが、誰かがひとりぼっちになっているという状態はちょっと嫌なので、なるべく会話がしやすい空間を目指しています」
「コミュニケーションを大事にしたい」というのは、自身の過去の後悔を経てたどり着いた。
「昔は全く余裕がなくて、自分の役割を果たすことで一生懸命でした。その時期に一緒にお仕事をさせていただいた方々に対しては、振り返ってみると、『あの時こうだったらよかったな』とかすごく後悔もあるし、反省点もいっぱいあって、申し訳ない気持ちになります。経験とともに、あの時の自分には戻らないようにしよう、という意識は強いですね」
<プロフィル>
ありむら・かすみ 1993年2月13日生まれ、兵庫県出身。2010年、ドラマ「ハガネの女」(テレビ朝日系)でドラマ初出演。2015年、映画「ストロボ・エッジ」、映画「ビリギャル」で主演を務め、映画「ビリギャル」では日本アカデミー賞優秀主演女優賞・新人俳優賞をダブル受賞。2021年の映画「花束みたいな恋をした」では、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞した。2022年にはドラマ「石子と羽男」(TBS系)、映画「月の満ち欠け」、2023年にはNHK大河ドラマ「どうする家康」、映画「ちひろさん」、2025年には映画「花まんま」などに出演。
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