世界10カ国で翻訳されている湯本香樹実(ゆもと・かずみ)さんのロングセラー小説を原作に映画化した「ポプラの秋」(大森研一監督)が19日から公開される。父親を亡くした少女が、“天国の郵便配達人”のおばあさんと出会って笑顔を取り戻していく心温まるストーリー。少女役を人気子役の本田望結さんが演じ、これが映画初主演作となった。おばあさん役は中村玉緒さん。
8歳の千秋(本田さん)は、父親を亡くし、生きる気力を失くした母親(大塚寧々さん)とともに電車に揺られ、とある町にたどり着く。そこで1本のポプラの木があるアパート「ポプラ荘」に入居することになった。最初は「子供はお断り」という大家のおばあさん(中村さん)だったが、熱を出した千秋を看病したことがきっかけで、千秋に優しくしてくれるようになる。おばあさんは「自分は亡くなった人へ手紙を届ける郵便屋だ」という秘密を千秋に語り、千秋は父親へ手紙を書きつづり、届けてもらうことにする。次第に不安が消えて、千秋に笑顔も戻るのだが……という展開。
この秋公開の黒沢清監督作「岸辺の旅」と同じ原作者、湯本さんによる小説の映画化。どちらも生きる者と死者をつなぐテーマが貫かれている。冒頭、大好きな父親を亡くし、強迫神経症のようになって、新しい環境になじめない少女の姿が淡々と映し出されることで見ているこちらは胸をえぐられるような気持ちになった。だが、アパートの大家のおばあさんが現れて、ちょっとコミカルな空気を運んでくれる。古い家に住み、不思議な雰囲気を持つおばあさんを、玉緒さんがさすがの芝居で見せてくれる。いかにも天国に手紙を届けてくれそうな風情で、千秋と一緒になって驚きを感じられるほど。千秋は父親に手紙を書き、それがグリーフケア(悲嘆ケア)となり、心を軽くする。おばあさんは何をするわけでもなく、ただ一緒の時間を過ごしてくれるだけだ。これは、アパートに住む一風変わった住人たちも同様で、悲嘆にくれる者に癒やしを与えてくれる。小さな千秋のことだけでなく、精いっぱい生きる母親のことも周囲の人々が見守っている。その姿の何と優しいことか。成長した千秋が母親の思いに気づいたのも、ポプラ荘での日々があったからこそ。大きな木のあるアパートの風景や、ロケ地となった飛騨高山の風景もとても温かい。大人になった千秋は村川絵梨さんが演じている。出演は、藤田朋子さん、宮川一朗太さん、内藤剛志さんら。19日からシネスイッチ銀座(東京都中央区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。