米メジャーリーグ界初の黒人選手といわれるジャッキー・ロビンソンさんの半生をつづった「42~世界を変えた男~」が全国で公開中だ。「L.A.コンフィデンシャル」(1997年)や「ミスティック・リバー」(2003年)の脚本で知られるブライアン・ヘルゲランド監督が手掛けた。野球を題材にした作品だが、野球ファンでなくても楽しめる、良質の感動作に仕上がっている。
1945年。ブルックリン・ドジャースの会長ブランチ・リッキーは大きな決断をした。一人の黒人選手をメジャーリーグ界に送り込もうというのだ。それは、人種差別がいまだ残るメジャーリーグ界において無謀な決断だった。しかし彼はジャッキー・ロビンソンという若者に目をつけ、彼をドジャース傘下の3Aチーム、モントリオール・ロイヤルズに入団させる。かくして、ジャッキーの栄光へと続く茨(いばら)の道が始まった。
今作のいいところは数々挙げられるが、中でも効果を発揮しているのは配役のよさだ。ジャッキー役のチャドウィック・ボーズマンさんも、ジャッキーのチャーミングな妻レイチェル役のニコール・ベハーリーさんも、さらに黒人記者ウェンデル・スミス役のアンドレ・ホランドさんも、テレビや映画、舞台への出演経験があるとはいえ無名の部類に入る。有名俳優が演じると、観客は、それが実在の人物であると信じられなくなるというヘルゲランド監督の配慮があったようだが、確かに、“手あかがついていない”ことで純粋な目でジャッキーの成功譚(たん)とそれを支えた人々の功績を追うことができた。一方、リッキーを演じているのはハリソン・フォードさん。当初ヘルゲランド監督は有名過ぎるフォードさんの起用に難色を示したそうだ。しかし、フォードさんは詰め物と特殊メークの助けを借り、見事に“化けた”。
野球に疎い筆者は、ジャッキー・ロビンソンという選手の存在を知らなかった。42番という背番号が永久欠番であることも知らなかったし、現在メジャーリーグでは、47年に彼が初めてメジャーリーグに登場した日にちなみ、4月15日にはグラウンドにいる全選手が背番号42を付けて試合をすることも知らなかった。だから、ここで目にすることはすべてが新鮮で、かつ感動的だった。では、ジャッキー・ロビンソンさんのことを知っていた人にとっては? それでもおそらく、彼がその野球の技術と人柄で周囲から認められていく過程には、胸を熱くせずにはいられないだろう。映画は1日から丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほか全国で公開中。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
<プロフィル>
りん・たいこ=教育雑誌、編集プロダクションをへてフリーのライターに。映画にまつわる仕事を中心に活動中。大好きな映画はいまだに「ビッグ・ウェンズデー」(78年)と「恋におちて」(84年)。