「くじけないで」の一場面 (C)2013「くじけないで」製作委員会
90歳を過ぎてから詩を書き始め、ベストセラー詩集「くじけないで」「百歳」を生みだして今年101歳で亡くなった柴田トヨさんの半生を映画化した「くじけないで」が16日公開された。トヨさんを八千草薫さん、その息子を武田鉄矢さん、その妻を伊藤蘭さんが演じている。監督・脚本は「60歳のラブレター」や「神様のカルテ」などで知られる深川栄洋監督。詩集同様、そっと励ましてもらえる一作だ。
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2006年、宇都宮市。柴田トヨ(八千草さん)は1人で暮らしていた。どの仕事も長続きせず、競輪通いの息子の健一(武田さん)のことがいつも気がかりだ。健一はすぐにかんしゃくを起こすが、根は優しい子だった。そんな夫のことを理解するしっかり者の妻・静子(伊藤さん)が一家の暮らしを支えていた。ある日、診療所の上条医師(上地雄輔さん)の診断で、トヨが緑内障だとわかる。心配した静子はトヨに「家にいらしてください」と声を掛けるが、トヨは首を横に振る。手術は成功したが、トヨはすっかり元気をなくしてしまった。そんな母を元気づけようと、健一は詩を書くことを勧める……という展開。
深川監督は回想シーンをとても丁寧に描いた。トヨさんの少女時代、新婚時代を振り返るとき、一人の女性の約1世紀の人生は、なんて長い旅路なのだろうと感じ入る。その旅路の果てにつむがれた言葉だからこそ、トヨさんの詩は多くの人の胸を打つのだろう。年老いても感受性豊かで「今」を少女のように楽しんでいる姿が、トヨさん自身の目線で描かれる。50~90代を名女優の八千草さんが演じ分けた。そんなトヨさんの生き方を主軸とし、もう一つの軸に息子・健一の不器用な生き方を持ってきているところが、この映画の面白さだ。武田さんは「金八先生」以前の持ち味を生かして、人間味あふれる世渡り下手な息子を演じている。トヨさんや妻の静子にムリを言う姿は、まるでだだっ子のようで思わず笑みがもれる。母が息子を、息子が母を思う姿が温かい。なお、トヨさんが実際に過ごしたデイサービスセンターでも撮影が行われた。16日から丸の内ピカデリー(東京都千代田区)ほか全国で公開。(キョーコ/毎日新聞デジタル)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、闘病をきっかけに、単館映画館通いの20代を思い出して、映画を見まくろうと決心。映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。
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