「オール・イズ・ロスト~最後の手紙~」の一場面 (C)2013 All Is Lost LLC
大海を舞台に、たった一人しか登場しない遭難した男のサバイバル映画「オール・イズ・ロスト~最後の手紙~」が全国で公開中だ。名優で、映画監督でもあり、サンダンス映画祭の主催者でもあるロバート・レッドフォードさんが、76歳で過酷な水上ロケに挑んでいる。メガホンをとり、脚本も担当しているのは「マージン・コール」でアカデミー賞オリジナル脚本賞にノミネートされ、レオナルド・ディカプリオさんをはじめハリウッドの映画人に注目されているJ.C.チャンダー監督だ。
男(レッドフォードさん)はインド洋を自家用ヨットで単独航海していた。水音で眠りから覚めてみると、船室に水が入ってきていた。ヨットが海上を漂流していたコンテナと衝突して、破損したのだ。無線もラップトップPCも水浸しになってしまった。やがて天気があやしくなって、雷鳴、嵐が吹き荒れる。なんとか生き抜いたものの、肝心のヨットが使いものにならない。ヨットを捨てることを決意した男は、サバイバルキットを持って救命ボートへ移動するが、やがてボートも浸水してしまい……という展開。
遭難した男が困難をどう切り抜けていくのか。ほとんどせりふがなく、男が誰なのか説明もない。ドラマチックなストーリー展開もないのに、男の行動をかたずをのんで見守ってしまう。映像の迫力はもちろんのこと、効果音が自然で、3Dではないのに体感している感覚になる。荒れ狂う風雨が名もなき一人の男に容赦なく吹き付け、太陽が照りつける。あの手この手で窮地に対峙(たいじ)する男を演じるレッドフォードさんは、深くしわが刻まれた顔だが表情は若々しく、晩年の人生に冒険に出ようと思った男を演じるのにこれほどふさわしい人もいないだろう。大海でどんなに助けを呼んでも、声は届かない。漂流するボートの下を、魚の群れが悠々と泳いでいる。人間はちっぽけな存在だ。男の必死な姿が美しく、強く心に響いてくる。生きることとは、希望と絶望の繰り返しだと思い知らされる。14日からTOHOシネマズシャンテ(東京都千代田区)ほか全国で公開中。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、闘病をきっかけに、単館映画館通いの20代を思い出して、映画を見まくろうと決心。映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。