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マレフィセント:日本語版主題歌を作詞した麻衣さんに聞く 父・久石譲には「助言を求めなかった」

 現在公開中のディズニー映画「マレフィセント」。今作の主題歌「Once Upon A Dream~いつか夢で~」で新たな歌詞が作られたのは、世界で唯一日本だけだ。ディズニー側から日本語の歌詞を作ってほしいという依頼があり、十数件の応募作の中から今回のストーリーに最もふさわしいものが選ばれた。その歌詞を書いたのは、歌手の麻衣さんだ。麻衣さんは作曲家・久石譲さんの長女で、今回の詞には「たとえ血のつながりはなくとも、同じ時間を過ごすことで家族になれる」という思いを込めたという、麻衣さんに歌詞の制作過程について聞いた。

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 映画がまだ完成する前の段階で詞を作ったという麻衣さん。イメージを固めるうえで役に立ったのは、今作の予告映像と、主人公マレフィセント役のアンジェリーナ・ジョリーさんの生い立ちや、彼女が養子に迎えた子供たちのことなどについて書かれた資料だった。それらを参考に最初に浮かんだ言葉は「あなたを守るために強くなる」。それが出てくるまで数日かかったそうだが、浮かんでからは「2時間以内」で書き上げたという。

 ただ当初、その言葉が置かれていたのは歌詞の一番最後の部分だった。完成したものでは、それは「あなたを守るために今」に変わり、最初に置かれている。これにはわけがある。テスト用のレコーディングをする際、スタッフ側の要望で、その言葉を最初に持ってくることになったのだ。最後にあった1行を最初に持ってくるといっても、ほかの言葉を1行ずつ繰り下げればよいものではない。そこで、レコーディング直前にもかかわらず、「『あなたを守る』を使ってしまったら、最後に何かを入れなければならなかったり、削らなければいけなかったり。削った言葉は2番にもっていったり」と、「パズルを組み立てる」ように完成させていったという。それでも、「『あなたを守るために』はコンクリュージョン(結論)として言いたかった言葉。ですから、最初でも最後でもよかったんですけど、(歌詞の)真ん中には来ないように、すごくこだわりました」と明かす。

 オリジナルの米国版では、1959年に製作されたディズニーアニメ「眠れる森の美女」で歌われていたものと同じ詞を、ラナ・デル・レイさんがトーンを変えて歌っている。麻衣さんも、最初はジョリーさんのポスターから、「ちょっと暗めの詞を考えていた」という。しかし、マレフィセントの母性を強調させた現在の歌詞を編み出した。用意した譜面に書いてあったオリジナルの歌詞は「惑わされてはいけない」とペンで消し、「迷いが出ないようにした」という。

 曲は三拍子。これがまた言葉を乗せるのは難しいという。「メロディー数が圧倒的に少ない」からだ。曲に言葉を乗せようとすると間延びしたような印象を与えてしまう。特に歌い出しの部分は「日本語では『あーなーたー』ですけど、英語は『I know you』。こちらのほうがリズム感がありますよね。最初はその部分をどうしようかと何日間も考えていました」と語る。その一方で、「節回しを変えないでくださいとか、英語の口に合わせてくださいという制約がなかったので、その点では自由にできました」と話す。

 「眠れる森の美女」では、オーロラ姫が王子を夢見て歌ったラブソングだったが、今回は、マレフィセントからオーロラ姫に与えられる母性愛をテーマにしている。独身で母性も未知のものだが、日頃から「親への感謝の曲をよく作る」という麻衣さん。そして「自分で勝手に思っていたことなんですけど、ジョリーさんが子供たちに注ぐ愛情は、彼女自身が母親からもらったものだというようなことを『マレフィセント』の資料で読んだとき、そのことと、私自身の親に対する感謝の曲を書くということが、なんとなくリンクしたんですね。ですから、私は自分の母のことを思いながら、母性愛ってこういうものなのかなと想像しながら詞を書いていきました」と話す。

 歌っているのは女優の大竹しのぶさんだ。大竹さんの歌声を聴いて「キー(音階)がすごく低いのに怖くならない。明るくて母性愛にあふれていて、包み込む感じが表現されていて、すごくいい感じになっています」と感激しきり。映画を見たときは、「心から楽しんだ」と同時に、「血はつながらなくてもその人のために生きる、それによって自分が強くなる」という、自身が詞に込めた思いが伝わってきて感動したという。

 父は、宮崎駿監督作などの映画音楽の作曲家として知られる久石譲さんだ。母方の母性は作詞に大いに役立ったようだが、では、久石さんの“父性愛”は? 「父性愛として語ることは難しいです。父は仕事人間なので(笑い)」と前置きした上で、「でも、仕事に対する向き合い方や、プロフェッショナルとはこうあるものだとか、そういう仕事の面で教訓として学んだことはたくさんあります」と話す。ちなみに今回の作詞にあたっては、久石さんからのアドバイスや、麻衣さんから助言を求めたことは「まったくなかった」そうだ。「なかったからよかったんですね、きっと(笑い)。(曲は)聴いているとは思います。普段から私の仕事に対して、母に『結構、よかったね』とかは言ってくれているようですけど。あまり細かいことを話さないのが(お互いに)得策なんです。一緒に仕事をするときは、もちろん話さなければいけないんですが」と父との関係を明かした。

 今回の日本語版主題歌が観客にどのように届いてほしいかと聞くと、「楽しんでもらえれば」と言ったあとで、「その問いの答えになるかどうかは分かりませんが、この作詞をしたことを周囲にあまりまだ言っていなくて、知り合いに、実は書いたんだと話したら、『え、どれ? あの“あなたを守るために~”というやつ?』と言われて、覚えてくれているんだとすごくうれしかったんです」と喜びの表情を浮かべた。そして、「めいっ子が大好き」という「アナと雪の女王」の主題歌「Let it Go~ありのままで~」ように、「みんなに愛される曲になればいいですね」と笑顔を見せた。

 <プロフィル>

 2歳からピアノを始め、4歳の頃、父・久石譲さんが作曲した宮崎駿監督作「風の谷のナウシカ」の「ナウシカ・レクイエム」で、「ラン・ラン・ララ~」と印象的な歌声を披露した。2005年の韓国映画「トンマッコルへようこそ」のテーマ曲でソロ活動を本格化させ、以降、歌手、作詞家、作曲家として活躍している。映画「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」(2011年)のオープニングテーマを、またNHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」第3部(11年)では主題歌「Stand Alone」を歌った。映画音楽やCM曲、英語曲の翻訳を手掛けるほか、最近は童謡をベースに日本語の美しさや親子愛をテーマに、“新しい日本”を表現することに力を注いでいる。3歳の頃、「母が読み聞かせてくれた『シンデレラ』が、暗記して全部言えるほど、絵本は逆さまでも読めるほど、大好きだった」という。

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