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大阪を舞台に、関ジャニ∞の渋谷すばるさんが初の単独主演を果たした「味園ユニバース」(山下敦弘監督)が、14日から公開される。渋谷さんが演じるのは、歌以外の記憶を失った男。音楽青春映画の傑作「リンダ リンダ リンダ」(2005年)の山下監督が手がけた音楽エンターテインメント作だ。大阪を拠点とする実在のバンド「赤犬」との共演にも注目。
大森茂雄(渋谷さん)は、気づくと路上で倒れていた。自分が誰なのか分からない。フラリと立ち寄った公園で開かれていたライブにいきなり乱入。歌い出して、気を失う。バンド「赤犬」のマネジャーのカスミ(二階堂ふみさん)は、その歌声にほれ込み、茂雄を放っておけずに、認知症の祖父と暮らす自宅に招き入れる。茂雄はカスミに“ポチ男”と名付けられ、カスミが経営する貸しスタジオの雑用を手伝い始める。ある日、赤犬のボーカルが事故でけがをしてしまい、カスミに代役を命じられたポチ男こと茂雄は、ボーカルとなって、なんとライブデビューも果たすが……という展開。
「味園」は、大阪の通称“ウラなんば”にある複合施設のビルの名。昭和の香り漂う街を舞台に、たくさんの音楽をちりばめて、演奏シーンでは躍動感がみなぎる。主人公の茂雄は記憶を失っているが、「歌」だけが残っている。歌は人間関係の橋渡しとなって、新たな絆を生み出していく。しかし、茂雄にはただならぬ過去があるらしい。やり場のないイライラで、眉間(みけん)にはしわ、表情はこわばったままだ。パンチの利いた渋谷さんの歌声は、茂雄の内面を吐露するかのようでピッタリとはまった。「歌」しかない男の本気の歌声を聴かせている。世話好きのカスミとの距離は……と思っていたら、あからさまな展開はなく、山下監督らしい独特の乾いた空気感でさらりと描かれ、思わずニヤリとさせられる。茂雄とカスミ、それぞれの家族との関係も見えてきて、少しずつ過去も分かるが、その展開もあけすけではないからこそ、登場人物に深く思いを巡らせることができる。本人たちのまま出演した赤犬は、山下監督の出身大学の先輩で、「ばかのハコ船」(03年)などの音楽を担当。本作では重要な登場人物となっている。映画は14日からTOHOシネマズ六本木ヒルズ(東京都港区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。二階堂ふみさんの独特な艶(つや)のある声が大好きです。