「種まく旅人 くにうみの郷」のワンシーン (C)2015「種まく旅人 くにうみの郷」製作委員会
淡路島を舞台に山と海とともに暮らす人々と、そこにやって来た女性官僚の交流を描く「種まく旅人 くにうみの郷」(篠原哲雄監督)が30日から公開される。ヒロイン役は栗山千明さん。桐谷健太さんと三浦貴大さんが確執を持つ兄弟を熱演しており、淡路島でオールロケした。
農林水産省の地域調査官・神野恵子(栗山さん)は、上官からの命令で日本の第一次産業の現状を調査するために、高速船で淡路島へやって来た。淡路島市役所の農林水産部に赴任することになった神野。調査の最中に、タマネギ農家の長男・豊島岳志(桐谷さん)と、海苔(のり)の養殖に従事している次男の渉(三浦さん)の兄弟と出会う。東京からUターンし、仲間と一緒に新しいビジネスモデルを模索している岳志と、家を出て漁協組合で働く渉は、父の死をきっかけに仲たがいしていた。いちずに働く2人の姿に感銘を受けた神野は、兄弟を仲直りさせようと、一大プロジェクトを思いつく……という展開。
都会からやって来た頭でっかちの女性官僚が、田舎でこう着状態だった兄弟に風を吹き込む……。地方の風景に心癒やされる作品に違いないが、第一次産業に従事している人々の悩みも織り込まれ、食を育む人たちに改めて思いが到る上に、一生懸命に働く若い人たちの姿がすがすがしく描かれている。物語の軸は男性の兄弟独特のライバル関係だ。農家の長男はとりわけ家への責任が重いというが、岳志もしかり。タマネギ作りではなく海の仕事を選んだ弟につらく当たるのは、本当は弟の方が農業に向いているのでは……とコンプレックスもあるからのようだ。兄弟役の桐谷さんと三浦さんは、りりしい眉とギラギラした目で表情まで似ている。兄としてのプライドを乗り越える姿を桐谷さんが熱演。若い2人が自分の道を模索する姿を、沖縄のサトウキビ畑を舞台にした青春映画「深呼吸の必要」(2004年)の篠原監督が丁寧に映し出した。また、淡路伝統芸能の人形浄瑠璃のシーンも効果的に織り込まれ、代を受け継ぐことの難しさと重さ、そして従事する人々の能力の高さが伝わってくる。海苔づくりの工程や、山の泥を海に流す伝統作業“かいぼり”など、なかなか見られないシーンが目白押しだ。東劇(東京都中央区)ほかで30日から公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。今作で淡路島の海苔がビールのつまみになると知りました。おいしそうだった……。