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俳優の佐々木蔵之介さんと女優の永作博美さんが夫婦役でダブル主演する映画「夫婦フーフー日記」(前田弘二監督)が全国で公開中だ。川崎フーフさんの闘病ブログを基に書籍化した「がんフーフー日記」(小学館)が原作。映画では死んだはずの妻が残された夫の前に現れ、2人で過ごしてきた日々を振り返るという設定で物語が展開する。「ヨメ」のユーコ役を演じる永作さんと、メガホンをとった前田監督に、撮影の様子やダンナとヨメの関係性などについて聞いた。
◇オーディオコメンタリーに着想を得る
原作の印象を「起きることはつらいことばかりだけど、(原作を)読んで、すごく温かい気持ちを感じだ」と語る前田監督は、「ダンナとヨメの人柄に引かれたので、ファンタジーだけど2人の人柄を見せていきたかった」と製作前の心境を明かす。ヨメを永作さんが演じることを、「(永作さんが出演していた)『たけしの万物創世紀』のイメージがあったからすんなり入れた」と当時の出演番組での印象が役のイメージと重なったという。前田監督の発言を聞いた永作さんは、「すごくマニアックなところを出してきた」と笑い、「久しぶりにはじけた役をやらせてもらった」と振り返る。続けて、「最近はシリアスな役が多い感じですが、以前はエネルギッシュや活発な役も多かったので、その印象も多少あるのでは」とほほ笑む。
映画は死んだはずの妻が残された夫の前に現れるという設定が追加されているが、その着想を、出演者が撮影当時を振り返りコメントを入れるという「海外の映画のDVDのオーディオコメンタリー」から得たと前田監督は語る。オーディオコメンタリーを見た瞬間、「これだ!と思った」といい、「一緒に過去を見ていることを体感できればいいのでは。そうすることで悲しいシーンなのにどこかほほ笑ましかったり、楽しいシーンもどこか切なくなったりする」と意図を解説する。
◇エネルギッシュに演じ切った永作
永作さんは難しかったシチュエーションを「過去が“現実”で現在が“俯瞰”という、時空を超えたところに(ダンナとヨメの)2人がいるので一種のファンタジー」ととらえ、自身の役を「豪快で面倒見がいい人で、ある意味、自分のやりたいことや自分の好きなものに対し、欲が深い人なのかもしれない」と分析。そういった役を演じるにあたり、「(ヨメの)エネルギーが強かったので、表現するにはとことんダイナミックにして超えていくしかない」と決意し、「『絶対この人死なない』という女性がここにいたらいいなというぐらいの気持ちだった」と明かす。
死んだヨメという役柄を演じる永作さんは、「(ヨメが)亡くなった病室のシーンを見ていてリアリティーを感じ、すごく不思議で妙に悲しくなった」と打ち明け、「特に何かしていたわけでもないし、誘導しているわけでもないのに、(人が)死んでいるのが分かるような的確さを感じ、ちゃんとその場面がはっきりと入ってくる」と映画の空気感をたたえる。さらに、「今作の場面、場面がそれぞれすこんと入ってくるから、どのシーンも印象的」と太鼓判を押す。
◇10年ぶりの共演ながら息ピッタリ
2004年に放送されたドラマ「ラストプレゼント 娘と生きる最後の夏」(日本テレビ系)以来、約10年ぶりに佐々木さんと夫婦役で共演した永作さん。「10年もたっていたとは思っていなかったし、相変わらず男前だと思いました」と笑顔を見せる。夫婦漫才のような掛け合いの演技について「佐々木さんはいつも安定感のある返しをしてくれるので安心するし、関西出身の方で本当に助かりました」と感謝する。続けて、「お互いに自分は絶対に悪くないと思って言い合った結果、ああいう掛け合いになった」といい、「『コントや夫婦漫才みたいにやってほしい』と事前に言われていたら、あんなふうにはできなかったかも」と振り返る。
前田監督も「その場で生まれたものを大事につなげていこうと思った」と、夫婦が作り上げた空気感を大切に撮影。そして、「自分のイメージ通りいくのは面白くないし、最初から決めつけるのではなく僕も発見していきたかった」と明かす。プロポーズする場面が思い出深いシーンという前田監督は「原作では『17年間で初めて見せる顔をした』とあったので、撮るならワンテークしかないという気持ち」で撮影に挑み、「永作さんの表情を先に撮るかどうか悩んだが、段取りをなるべくやらずに一発勝負でいこうと」と決意したという。
監督の強い気持ちを感じ取り、「私も佐々木さんも勝負すると覚悟したと思う」と永作さんも心を決めたといい、「『自由に時間を使わせていただきます』という空気の中、2人の時間が生まれた」と経緯を説明。さらに「初めてヨメが弱音を吐くシーンもワンテークで撮った」と永作さんは明かし、「あの流れをワンテークで行くなんて新し過ぎるとしびれたけれど、結果は大好きなシーンになった」と笑顔を見せる。
映画では大好物であるハンバーガーをヨメが頬張るシーンが印象的に使われている。「食べるシーンは難しい」と話す永作さんは、「矢継ぎ早に食べたいけれど一口を大きくしちゃうと次がいけない」と難しさを説明。そういった状況でありながら、「最後にハンバーガーを食べるシーンはちょっとずつ一口を大きくしてもらった」と演出したことを前田監督は打ち明ける。「入らないと思いますけどやってみますと食べたら、きれいにパクっと入った」と笑う永作さんは、「ヨメは好きなものはどんなことがあっても曲げられない人だと感じたし、そういう意味で生命力を大きく感じる」と感慨深げに語る。
◇ダンナとヨメの関係を語る
夫婦の掛け合いに加えて、物語は独特の時間軸で進むが、「今回のように時間軸が変わることは初めてだったけれど、『この時間はいつなのだろう』と分からないままでも乗れた自分がいて、原作がすんなり読めた」と前田監督は切り出し、「記憶もそうで、2日前と3日前の区別がつかないこともあるし、急に幼児期を思い出したりもして、(物事が起きた)順に(記憶が)よみがえるわけではない。フィクションならではの豊かさがあればいい」と考え、「フィクションには決められたルールはないので新たにルールを作り、もし見たいと思うものがあればルールを外して見たいものを見せようと」と物語の構造を解説する。そして、「夫婦のリズムが映画のリズムになっていった」と完成作に自信をのぞかせる。
ダンナとヨメのような夫婦関係を、前田監督は「理想で映画を作っているわけではないけれど、理想の関係だと思う」と感じ、「2人は言い合いをするけれど、本音ではどこか別のところにある。照れがあったり、ウブなところがあったりして可愛い」とダンナとヨメの関係をうらやましがる。永作さんも「お互いのことをすごく思っているけど、それを出すのは恥ずかしいからちょっと引く。その隙間というか近付いたり引いたりの距離感がちゃんとある感じがいい」と同意する。しかし、「(ヨメが)亡くなったあとのやりとりを見ていると、少し男の人の理想というものが入ってきているのかなと」と女性目線での印象を語る。
死んだはずのヨメとダンナが人生を振り返る姿を見ていると、改めて人間関係について考えさせられる。「亡くなってしまってポッカリ空いた穴を埋めるのは、誰しもが難しい」と永作さんは切り出し、「本当に(亡くなった人が)来てくれて話してくれたらどれだけいいか」と神妙な面持ちで語る。続けて、「それもその人を思うということだから、皆さんにも起こっていることなのでは」といい、「うそか本当かは置いておいて、存在を感じるというのは元気づけようとしているのだと思う」と持論を展開。そして「失意のダンナをなんとかしなくてはとヨメは考えたのだと思う」と笑顔で語り、「幻影か幽霊かは見た方が感じてくれたらいいと思う」とメッセージを送った。映画は全国で公開中。
<永作博美さんのプロフィル>
1970年10月14日生まれ、茨城県出身。数々のテレビドラマや映画、舞台などで活躍。主な出演作として、ドラマは大河ドラマ「功名が辻」、「ダーティー・ママ!」(日本テレビ系)、「さよなら私」(NHK)など、映画は「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」(2007年)、「八日目の蝉」(11年)、「ソロモンの偽証 前編・事件/後編・裁判」(15年)などがある。
<前田引二監督のプロフィル>
1978年生まれ、鹿児島県出身。独学で自主映画を作り始め、2005年に短編映画「女」「鵜野」でひろしま映像展2005のグランプリと演技賞を受賞。06年には「古奈子は男選びが悪い」で第10回水戸短編映像祭でグランプリに輝く。11年には「婚前特急」で劇場公開デビュー。今作は劇場公開3作目となる。
(インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)